57. 青色LED訴訟について

青色LED訴訟で、日亜化学工業に対して発明者への200億円の対価支払いを命ず る判決が出ました。このことで、発明者が正当に評価されて、良い発明をした人が金 銭面でも恵まれるような時代が来ることは大変に良いことだと思います。今までの日 本は、科学者や技術者を収入面であまりにも冷遇しすぎてきたのだと思います。科学 技術立国のため、子供の理科系離れ防止のためにも、今回の判決を良い方向に活かせ る流れができるのを期待します。

ただし、発明の価値を、発明を発展させて創造された事業の価値のいくらの割合であ ると認定するのが適当であるかという問題は残ります。事業の創造には、基本発明だ けでなく多くの発明や、多くの人々のたくさんの技術的および非技術的な創意工夫が 貢献しているためです。

したがって、発明者に与える対価の算定では、事業価値の中における発明価値の割合 を認定し、発明価値の中における個別発明の価値の割合を算出するというような考え 方で評価をすべきだと思います。

問題は、皆さんがご存知のとおり、上記のような考え方をしても現実には具体的な数 値を算出するのは困難であるということです。裁判所において、損害賠償金の算定を する際に、実施料率や寄与率などを用いて計算していますが、実施料率や寄与率の設 定は最後には主観的に決めるしかないというのが実態だと思います。今回の、青色L ED訴訟の判決文においても、金額の計算において用いられているキーと成る数値は 定性的な推論から導かれているように思えます。 http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/c617a99bb925a29449256795007fb7d1/857cf473624ccc5e49256e2b002f2054?OpenDocument

上記の判決を読んでみますと、次のようにキーと成る数値を設定しています。

特許権を用いて市場を独占したために得たとみなせる超過売上高の割合=50%、
もし、特許でライセンスをしたとした場合の実施料率=20%、
超過売上高における中村氏の貢献度=50%、

これらの3つの数値を、売上高および予想売上高の1兆2086億円に掛け算して、 中村氏の受けるべき相当の対価を約604億円と算定しています。相当の対価が60 4億円なので、中村氏が請求している200億円を支払えというのが、この判決で す。

この判決では、次のような暗黙の前提があると考えます。
1. 有力な競合企業があった業界で特許を用いて市場を独占した場合、特許が原因 で得られた超過売上高は、総売上高の50%とする。
2. 基本発明の貢献度は、その製品に含まれる総発明価値の50%とする。

今後、この判決の影響で職務発明における発明者が受けるべき対価の決め方が大きな 議論になっていくと思います。しかし、この発明の対価の問題は、個別企業が従業員 と自由に契約するというものにするのではなく、一定の範囲で国家の科学技術政策を 反映できるものにすべきであると考えます。例えば、次のようなものです。

●科学者や技術者の収入を高め、科学技術を目指す若者を増やそうとか、海外からも 優秀な科学技術者を呼び込もうという政策をとるのであれば:
事業価値の中における発明価値の割合は最低でも50%であると認定しなければなら ないとする。

●基本発明を奨励することで基礎研究を盛んにしようというのであれば:
改良発明や応用発明などを含む発明価値の中での基本発明の価値の割合を、最低でも 50%に認定しなければならないとする。

このような問題においても、多くの特許発明の中でどれが基本発明であるかを見出す ことが重要になってきます。その際、請求項記述言語を用いて請求項が明瞭でコン ピュータにも理解可能に記述されていれば、発明間の包含関係の検出や、基本発明の 検出なども簡単・迅速の行なえます。
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