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401. 文書における情報の削除は、虚偽の情報の作成と言える場合があるか?

検察庁は、財務省での公文書改竄について、虚偽公文書作成罪(参考サイト1)の適用を慎重に検討している。(参考サイト4)
今回の財務省公文書改竄事件が、虚偽公文書作成罪に該当するかどうかは、改竄前の公文書からの一部の記載の削除が「虚偽の文書」の作成に該当するかどうかにかかっている。

これを、まず一般的な問題として検討してみると、次のようになる。
文書における情報の削除は、虚偽の情報の作成と言える場合があるか?

結論は、「文書における情報の削除は、虚偽の情報の作成と言える場合がある。」となる。少なくとも、「不明偽装型の虚偽文書」の場合と、「意味逆転型の虚偽文書」の場合がそうである。
虚偽公文書作成罪(参考サイト1)における、虚偽の文書かどうかの判定の上で、これは大変に重要である。この観点で、改竄前文書と改竄後文書(参考サイト2)を読む必要がある。

1. 不明偽装型の虚偽文書

まず、具体例から説明する。例えば、X氏がA氏の安否を心配した親族C氏から「2015年4月1日以降の安否不明のA氏の2015年4月1日以降の動向調査」を依頼されて、 下記1から3から成る報告文書Pを作成していたとする。

【報告文書P】
1. 私は2015年5月1日にA氏の事務所を訪問した。
2. 事務所で、A氏は新聞を読みながら食事をしていた。
3. 事務所には机が2つと応接セットがあった。

しかし、X氏は報告文書Pを書き換えて、次の報告文書Qを作成して、A氏の親族C氏に報告文書Qを渡したとする。
【報告文書Q】
1. 私は2015年5月1日にA氏の事務所を訪問した。
2. 事務所には机が2つと応接セットがあった。


この報告文書Qでは、報告文書Pの2項が削除されているために、親族C氏からみると「A氏が2015年5月1日に事務所に居たのかどうか不明である」という事を示していることになる。
さらに踏み込んで言えば、「A氏の2015年4月1日以降の動向調査」を依頼されてA氏の所在を探索しているX氏の報告書に、2015年5月1日にA氏の事務所を訪問した際の状況にA氏が 居たと書いていないということは、A氏が居なかったという報告文書であると、C氏は当然に解釈するし、通常は誰でもA氏が居なかったという報告文書であると解釈する。
しかし、事実は報告文書Pの2項にあるように、「A氏は2015年5月1日にA氏の事務所に居た」のであるから、報告文書Qは「虚偽を表現している」事になる。

ここで、次の報告文書Rを考えてみる。
【報告文書R】
1. 私は2015年5月1日にA氏の事務所を訪問した。
2. 事務所で、A氏は新聞を読みながら食事をしていた。

報告文書Rは、報告文書Pと比較すると、3項の「事務所には机が2つと応接セットがあった。」を削除しているので、事務所に机があるかどうかや応接セットがあるかどうかが不明となっている。
しかし、「2015年4月1日以降の安否不明のA氏の2015年4月1日以降の動向調査」を依頼したC氏からみると、事務所の机や応接セットの数などには関心が無いので、それらの数が不明 であっても、問題ない。
それよりも、報告文書Rには、「事務所で、A氏は新聞を読みながら食事をしていた。」というA氏の居場所の情報があるので、実質的には報告文書Rには虚偽は無い。
すなわち、報告文書Qは、報告文書の利用者の関心事項について、不明でないものを不明であるとでっち上げた「不明偽装型の虚偽文書」となる。

情報の利用者の関心事項である重要な情報の一部を削除して、不明でないものを不明であると偽装した「不明偽装型の虚偽文書」は、その情報の利用者に大変な損害をもたらす場合がある。

例えば、事態が不明だと誤認識して、その事態に対する対応策を実行できないまま待ち状態をなってしまい、事態が取り返しのつかない結果をもたらすという事もある。
日露戦争における日本海海戦では、ヨーロッパからはるばる日本海に向かっていたロシアのバルチック艦隊がいつどの海峡から日本海に侵入するかを知ることは、死活的に重要な情報であった。(参考サイト3)
バルチック艦隊の侵入経路を探っていた信濃丸は、1905年5月27日に「敵艦隊二百三地点、午前五時」という電文を送信している。この情報が、日露戦争での日本の勝利をもたらした。
もしも、「敵艦隊二百三地点、午前五時」という電文から「敵艦隊二百三地点」という部分を削除して、「午前五時」という電文にしていたら、どうだろうか?
確かに、午前五時であったのだから、そこには虚偽は無い。しかし、「敵艦隊二百三地点」を削除するということは、「敵艦隊の動向は不明」という虚偽の情報を伝えたことを意味する。
そして、その結果はバルチック艦隊とロシア極東艦隊の合流をもたらし、日本海軍の艦隊は壊滅されて、日露戦争では日本は敗戦していたはずである。

2. 意味逆転型の虚偽文書
次に、別のケースを考えてみる。X氏とA氏の会議での議事録である。作成はX氏である。

【議事録S】
1. 会議の日時は2015年2月1日15時である。
2. A氏は、土地Wを購入する、などという意思はない、と言った。
X氏は後で、この議事録Sの一部を削除して、議事録Tとした。

【議事録T】
1. 会議の日時は2015年2月1日15時である。
2. A氏は、土地Wを購入する、と言った。

議事録Tの第2項は、文の一部「などという意思はない」が削除されて、意味が元の文とは逆になっている。
これは、「意味逆転型の虚偽文書」である。


文書における情報の削除は、文書に記載されていたAという命題が「真」なのか「偽」なのか「不明」なのかの区別を消滅させ、全部、「不明」ということにしてしまう。
すなわち、Aという命題に関する証拠隠滅にも該当する。
文書における情報の削除は、「削除することの強制を受けたことの状況証拠の偽装」や「削除された情報の中に不正行為を示す情報があるとの状況証拠の偽装」も可能となる。
この状況証拠と「強制を受けたとの証言者」や「不正行為をしたとの証言者」をでっち上げることで、強制を受けたことや不正行為があることの証拠も形成可能となる。
このような危険も、文書における情報の削除はもたらす場合がある。
また、行政上の決裁公文書は、決裁者による決裁の目的にのみ利用されるのではない。行政情報公開によって、国民による行政監視の目的や、国会審議のための資料としての目的や、 会計検査院による会計検査の目的や、将来の別の行政目的のための基礎資料としての目的など、多様な目的がある。
したがって、その目的のどれかにとって、Aという命題が「真」なのか「偽」なのか「不明」なのかの区別を消滅させ、全部、「不明」ということにしてしまう「情報の削除」は、「不明偽装型の虚偽文書」の 作成と言える。
このような事と、財務官僚と安倍内閣の確執の存在を合わせて、状況を理解することが重要である。(参考サイト5)

【参考サイト】
1. 虚偽公文書作成罪(156条)
https://www.naiken.jp/kokuso/kei_156kokyogi.html
2. 森友学園 決裁文書 財務省調査結果 全文書掲載 NHK NEWS WEB
https://www3.nhk.or.jp/news/special/moritomo_kakikae/
3. 日本海海戦 1905年(明治38年)5月27日 その1「敵艦見ユ」
https://ameblo.jp/tank-2012/entry-12031598404.html
4. 検察、刑事責任を慎重に判断「書き換え」刑事罰の可能性も
http://www.sankei.com/west/news/180312/wst1803120070-n1.html
5. 文書改竄の背景に財務官僚との確執 潰される「日本の再生」
http://www.sankei.com/affairs/news/180325/afr1803250001-n1.html


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