360. 情報通信技術戦略に必要な「データの権利処理技術」と「センシングデータ流通市場」
2015年6月5日付の「情報通信審議会 情報通信技術分科会 技術戦略委員会 中間報告書(案)」(以下、報告書案と言う)には、残念ながら大きな要素が、
「第1章 検討の背景」から欠落している結果、「第2章 新たな情報通信技術戦略の方向」にも、大きな要素の欠落が生じています。(参考サイト1)
「第1章 検討の背景」に欠落しているものは、図1−1にて表現するならば、「データの権利処理技術」と「センシングデータ流通市場」です。
図1−1では、通信技術の上に情報利活用技術が追加され、その次に「他分野の市場・技術・制度等」に進んで「様々な分野・業界における価値の創出」となるとしています。
これは、情報自身の価値よりも情報が表現する物品やサービスに価値があり、情報が取引対象の主役ではなかった時代のフレームワークです。
しかし、IoTの時代となりますと、物品よりも情報、なかでもデジタル化されたデータに価値の主役が移っていくので、企業の壁を越えて、
データを対象とした商取引としてのデータ流通が必要となります。データを対象とした商取引のためには、その基礎として「データの所有権」を明確化した上で、
データの権利処理技術を開発し、その技術に基づいてデータ流通市場を創設し、運営することが必要です。
IoTの時代では、現実の世界である物理空間の状態をセンサーを用いて情報空間に写像して処理すると言うCPS(Cyber Physical System)が基幹システムとなります。
したがって、特に「センシングデータの所有権」の確立に基づいたセンシングデータ流通市場の創設と運営が、報告書案が目指す未来の実現には必須となります。
センシングデータの所有権と知的財産権については、参考サイト2にまとめがあります。
資本主義社会では、経済は商取引を単位として形成され、市場競争の中で多様な進化が生じます。IoTの世界での商取引の基礎単位の1つが、センシングデータの流通です。
センシングデータ流通がなければ、ビッグデータ処理をする対象としての多様で大量なセンシングデータが集まりませんのでビッグデータ処理の対象がそろわないことになります。
AIにしても、機械学習するためには多様な環境条件や目的における多様なセンシングデータを大量に集めて供給することが前提として必要です。
例えて言うなら、多くの漁船がさまざまな魚をとってきても、魚の所有権が明確化できず、誰が魚を売る権利をもっているのかかが判らなければ魚の売買ができないので魚は流通せず、
さまざまな店での料理にはつかわれません。また、魚の所有権が明確化できても、魚市場がなければ魚の取引が遅すぎて、売れる前に魚が腐ってしまうことになります。
今回の報告書案は、IoT産業革命においてはセンシングデータ等のデータが商取引の主役になるので、データの所有権の明確化とデータ流通市場、
特にセンシングデータ流通市場の創設が重要との認識が欠落していますので、その点を追加することが必要と思います。
センシングデータ流通市場の1つのアーキテクチャは、参考サイト3にて説明されています。
【参考サイト】
1. 情報通信審議会 情報通信技術分科会 技術戦略委員会 中間報告書(案)
http://www.soumu.go.jp/main_content/000361964.pdf
2. センシングデータの所有権と知的財産権について
http://www.patentisland.com/memo358.html
3. 特許第5445722号 アプリの要求に合致したセンサをアプリに結合する機能
http://www.omron.co.jp/about/ip/patent/17.html
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