331. 請求項をもとにした技術と市場の監視活動
特許出願した後又は特許権を取得した後であっても、請求項をもとに技術と市場を日常的に監視することで、特許戦略の実践に必要な特許パワーと
情報パワーと組織パワーを、向上させることができるし、競合企業を自社事業の市場に参入させないための参入障壁の第1歩とすることができる。
そのための第1段階としては、自社の保有する特許の中から監視対象とすべき価値ある請求項を選定し、選定した請求項を忠実に図で表現したクレーム対応図を作成し、
組織内でそれを共有する。
クレーム対応図を作成する過程で、作成した人は、その請求項の内容をしっかりと記憶することができるし、クレーム対応図を見ながら請求項を読んだ人も
請求項の内容をしっかりと記憶することができる。クレーム対応図に対して、その発明の技術的な特徴やカバーできる有力市場を示すキャッチフレーズを示していると、
さらに記憶に残るようになる。
請求項の内容をしっかりと記憶していると、その請求項に関連ありそうな技術情報(論文など)や市場情報(製品のカタログやマニュアルなど)に記載の断片的な
情報によっても、その請求項の権利範囲内に入りそうかどうかという感触が得られるようになる。
第2段階としては、Web検索や一般文献データベース検索や特許検索、展示会や各種セミナーなどからの情報収集などを中心として、請求項をもとにした技術や市場の監視活動
を行なう。
そのような監視活動で得られた情報をもとに、請求項でカバーしたい市場や技術のターゲットを設定した上で、拒絶理由通知応答の際の請求項の補正や分割出願などを行なうのである。
このようにすることで、単に公知文献をカバーしないようにするだけの補正や分割出願などではなかなか実現できない「活用可能性の高い特許権の取得」が高い
確率でできるようになる。
請求項をもとに、技術や市場の監視活動を日常的に行なうことが特許戦略の実践において、大変に重要である。この活動は、単に特許出願を行ない特許権を取得することだけが
知財部門の役割であるというレベルの低い意識から知財部門を脱却させる。
すなわち、事業を知的財産権を活用して発展させる当事者であるとの当事者意識を知財部門の各メンバーに実感させる。
特に、競合や顧客の動向(技術、製品、提携戦略、ビジネスモデルなどの動向)を日常的に、自社の特許出願の請求項を通して監視していると、市場や技術を見る目がだんだんと研ぎ澄まされてきて、事業企画や技術企画もある程度は
実行可能な知見を獲得できてくる。
第3段階としては、【発明が解決しようとしている課題】と【請求項】の構成要素の上位概念や下位概念に関する技術と市場の動向を監視して、請求項のカバーする技術と市場の
将来の動向や価値を推定できるようになる。
すなわち、技術や市場が請求項に入る方向に進んでいるかどうかを、次のような方法で測定することができる。
例えば、請求項Claimが、構成要素AとBとCとDとEとFから構成されているとする。各構成要素は、「〜を〜で〜する〜手段」という構造を有しているとする。
また、Claimに記載の発明で解決すべき技術的課題がPであるとする。
Pを技術的課題とする特許出願の動向をみる。すなわち、出願件数の時間的推移、出願人の推移、Pを解決する手段の分野の推移や着目すべき発明の発明者の開発動向をみる。
また、Claimの構成要素の中の特徴的な構成要素や、発明を実施するうえでのコスト上の問題となりそうな構成要素に関して、技術開発や製品の動向を調査する。
これによって、技術や商品の動向から、Claim記載の発明が実施されやすい方向になりつつあるのか、Pを解決する他の技術的手段の方が実施されやすい方向になりつつあるのかを
監視する。この方法をさらに洗練すると、Claimにカバーされる技術や製品が出現する可能性を数値で表現できるようになる。
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