322. 請求項に記載の発明の理解と請求項の示す技術的範囲
本来、請求項は審査段階では特許権付与を求める技術的範囲を記述するものとして審査対象となり、特許権の付与後は特許権を与えられた技術的範囲として
イ号製品が包含されるかどうか又はイ号製品が間接侵害品かどうかの判断の基準となるべき部分である。
したがって、審査段階と侵害判断の段階で請求項で示されている技術的範囲を異なるものとして解釈することは、本来はおかしな事である。
しかし、次のような欠陥の存在が、請求項の解釈を原則どおりに行うことを妨げている。
(1) 請求項の記述方法を規定する公式な文法が存在しない。その結果、請求項の解釈方式の公式な文法も存在しないし、出願人が記述する請求項は多様な
品質と記述形式のものとなり、審査においても侵害判断においても、効率と安定性を損ねている。
(2) 請求項の記述に用いる用語の解釈の共通基盤となるべき公式の用語辞書が存在しない。
(3) 請求項を理解するとは何を意味するのかを技術的でしかも具体的に規定した公的基準が存在しない。
(4) 特許権付与までのプロセスは行政官庁としての特許庁が担当するので裁判所は特許権が無効かどうかは判断しないが、侵害かどうかの判決を出すために、
特許権が有効と考えられる蓋然性の高い権利範囲となるように、請求項を実施例の近くまで限定解釈した判例が多数、蓄積されている。
(特許法第104条の3の新設の前までの時代)
請求項を理解できなければ、審査もできないし、侵害かどうかの判断もできない。しかし、上記の(1)から(4)の欠陥の存在のため、請求項の理解の
ためには、発明の詳細な説明および図面を参考にする必要性があるケースがほとんどとなっている。
その結果、審査実務の便宜のために「発明の要旨」という特許法に規定されていない概念をあみ出して審査段階では請求項記載の発明を広く解釈して拒絶理由を
発見しやすくした。また、侵害判断の裁判実務の便宜のために「クレーム解釈」における各種の手法があみ出された。
その結果、請求項は発明の詳細な説明および図面を離れても発明を理解可能に記述すべきであるという基本が崩れてしまい、欠陥があり解釈に争いをもたらす
請求項であっても解釈できるように、発明の詳細な説明および図面を参考にしたり、審査経過などを参考にするという例外的な手法が判例のなかで蓄積されていった。
その結果、これらの例外的な手法が原則的手法であるかのような錯覚が広がっているように思う。
発明の詳細な説明および図面で開示された内容をもとに当業者が実施できる範囲内を超えた技術的範囲を請求項は含んではならない。(サポート要件)
この意味では、発明の詳細な説明および図面で開示された範囲は、請求項が有効か無効かを判断する基準である。
本来、サポート要件として請求項の有効性判断の基準となっている発明の詳細な説明および図面を、請求項の技術的範囲の解釈には用いるべきではないはずである。
どんな分野であっても、判断基準と判断対象の混同は合理的とは言えないからである。
しかし、上記の(1)から(4)の欠陥のため、このような原則論は現実には通用しない状況である。
請求項解釈に関する判例の蓄積や学説の創作や、特許法の改正を繰り返しても、請求項の記述文法および請求項解釈の基盤となる公式な用語辞書の整備などを行わねば、
いつまでたっても請求項をどのように解釈するかという根本問題は解決しない。
多様な欠陥を含む請求項を前提にする限り、整合性のある制度は実現できないからである。
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