321. 特許権活用に必要な観点と能力の広がり

特許権活用は、自社の事業のために他者の活動を自社の特許権を用いて制御する行為である。このような特許権の活用ができるように、特許出願も中間処理もしているのであるが、 これらの活動に必要な情報は待っていると、どこかから降ってくるものでもないし、活用可能性に保証のある特許権も存在しない。また、自社についても他者についても、 その活動がどのように展開していくかには、不確定性が大いにある。そのため、不確定なものにチャレンジして、能動的に確定的な実態を形成する活動をしたり、情報収集と分析 と、ある程度のリスクを伴った判断のもとで、対象の実態や将来動向を推定することも必須である。

すべての活動を、確定した事項だけの範囲に限定し、自分では情報収集も分析も判断もしないようにしようとするなら、そもそも特許出願すらできない。

特許権活用のための情報分析活動の状況は、次のような要素を縦軸と横軸に持ったマトリックスで表現できる。

A1:自社、A2:競合、A3:顧客、A4パートナー

B1:現在の実施状況把握の有無、B2:将来の実施の可能性推定の有無、B3:判断に必要な情報収集と分析活動の有無

これを、次のような表で示してみる。

A1:自社A2:競合A3:顧客A4:パートナー
B1:現在の実施状況把握の有無C11C12C13C14
B2:将来の実施の可能性推定の有無C21C22C23C24
B3:判断に必要な情報収集と分析活動の有無C31C32C33C34

Cij = {有:1,無:0,不明:?}という符号を割り当ててみる。

そうすると、「特許権活用において最も劣化した状況」は、次のように表現できる。


【休止状態の知財活動】
これは、出願はするが特許権活用をまったく考えておらず、特許権活用に必要な情報収集も分析もしていないというものである。
A1:自社A2:競合A3:顧客A4:パートナー
B1:現在の実施状況把握の有無
B2:将来の実施の可能性推定の有無
B3:判断に必要な情報収集と分析活動の有無


【自社の現在だけを見た知財活動】
この最悪な状況よりも少しは良さそうには見えるが、自社に対して特許権活用は行わないので自社実施状況だけを把握したところで、特許権活用上は 意味をなさないので、本質的には最悪状況とほとんど変わらないというのが、次のような状況である。
A1:自社A2:競合A3:顧客A4:パートナー
B1:現在の実施状況把握の有無
B2:将来の実施の可能性推定の有無
B3:判断に必要な情報収集と分析活動の有無


【自社の現在と将来は同じ、競合は自社と同じとする知財活動】
何らかの仕事をしているかのように見せかけるための論理(前例踏襲横並び)を用いた状況であり、自社の現在の実施状況だけを唯一の情報源としている。 その結果、自社実施しているかどうかだけで自社特許についての価値判断も処分判断もするようになる。そして、基本特許であっても、自社実施していなければ簡単に捨てるように なる。
A1:自社A2:競合A3:顧客A4:パートナー
B1:現在の実施状況把握の有無0(ただし、自社の現在の実施状況と同じとみなす)
B2:将来の実施の可能性推定の有無0(ただし、自社の現在の実施状況と同じとみなす)0(ただし、自社の現在の実施状況と同じとみなす)
B3:判断に必要な情報収集と分析活動の有無


【自社他者の現在と将来の状況の把握と推定を能動的な情報収集と分析によって実行するもの】
理想的な活動状況である。
このような理想的な活動ができるようになるためには、自社だけでなく、他者の活動や社会のニーズや技術発展の動向にも関心を持って、調査分析を日頃からしていなければならない。 また、調査分析するだけでなく、独創性も保有して、将来性のあるアーキテクチャや事業分野を構想したり、目利き能力で察知することも必要となる。 そのためには、自分自身も発明をしたり、ビジネスモデルを構想するという訓練を常に行なうことが重要である。これらは、不確定性へのチャレンジでもある。
A1:自社A2:競合A3:顧客A4:パートナー
B1:現在の実施状況把握の有無
B2:将来の実施の可能性推定の有無
B3:判断に必要な情報収集と分析活動の有無



価値創造のために不確定性と戦っている者(企画、開発、知財、生産、営業)は、本来はイノベータとならねばならない。 しかし、確定的な数値データとルールと組織権限を背景にイノベータを統制し、管理したがるアンチイノベータがいる。 すなわち、財務と経理と人事の分野の者たちは、アンチイノベータになりがちである。
アンチイノベータが強くなってくると、イノベータであるべき部署にも、不確定性への挑戦を止めて、予算とスケジュールと人事の管理ばかりを実行するようになる者が増えてくる。 そうなると、価値創造の活動よりも、予算とスケジュールと人事の管理の活動の優先順位が高く、高い評価を得られる組織に劣化していく。その結果、価値創造を行なわず、会議 と責任回避と権限と予算の争奪戦の社内政治ばかりとなって、ついには全体が消滅する。PDCAサイクルも不確定性にチャレンジするための工夫を伴ったPもAもなくなり、 PDCAサイクルは責任回避サイクルと成り果てるためである。
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