32. 知財立国に必要な価値観の改革
知的財産基本法では、創造的な人材の育成ということが重要な課題として挙げられている。しかし、創造的な人材は本当は
既に多数いるのであるが、それが埋もれているということも十分に考えられる。その良い例が、ノーベル賞を受賞した
田中耕一さんの例である。日本ではいつの頃からか、突出しないことが何よりも勝る美徳であるとする価値観が広く普及
している。これの具体的なあらわれが、「前例踏襲横並び主義」というものである。
入社したばかりの社員がその会社の仕事の仕方の矛盾や不具合を指摘したり、中には改善のアイデアを提起しても、先輩
社員や上司の前例踏襲横並びの判断基準でつぶされていることが非常に多い。
前例踏襲横並びというものは、前例がないから駄目とか、他社がやってないから駄目というように、判断が論理的な根拠
や科学的な調査結果に基づかないものである。論理的に考えたら新入社員のアイデアは、今までのやり方よりも格段に良
いので採用しようとか、そのアイデアでは、このような不都合が発生するが、その不都合は、そのアイデアでもたらされ
るメリットよりも大きいので採用できないというように周りが対処すれば、その新入社員の創造性は鍛えられて伸びてい
く。このように考えると、創造的な人材を育てるためには、合理的評価方法の普及が必要であることがわかる。
合理的評価方法と対極にある「前例踏襲横並び主義」による評価方法は、法律の分野で多く見られる。このことは、技術
と法律と事業の3つの分野が重なった分野である知的財産分野に注力して、知財立国を目指す日本の国家戦略に影をお
としかねない根本的な問題をはらんでいる。
法律の分野では、「多数説」、「判例」、
「立法者の意図」などを重視し、これをもとに判断するという思考形態が基礎に
ある。この思考形態は、発明や創造的思考とは矛盾するのである。
先鋭的に言うと、法律家的発想からは創造的人材の育成に必要な価値観の変革ができない。いくら法的な制度を変革しても
制度を動かす人間の価値観を変革できねば知財立国ができない。この意味で、知財立国は技術者、事業者、政治家の創造的
な発想を主体としていくことが重要であり、法律家は創造的な発想で描かれた改革案を法制度に表現するという役割を担う
べきである。
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