302. 価値,機能,技術の各表現形式と、請求項の表現

価値は、価値を与える対象の状態又は価値を与える対象に属するものの状態が、何らかの観点で良い状態であることである。
したがって、価値は「Aの状態がEである」という基本的な表現形式で記述される。省略形としては、「AがEである」とか 「E」というものがある。顧客に価値をもたらす場合は、顧客価値という。
そして、顧客価値の具体例としては、「顧客の保有する自動車の燃費が良い状態」とか「顧客が保有する自動車の燃費に満足している状態」が ある。また、「顧客の健康状態が良い」、「顧客が見たいテレビ番組を即座に見れている状態」というものもある。

機能は、何らかの作用を行なう能力である。そして、機能の表現形式としては「作用対象に対する動作」又は「作用対象に対して実現する状態変化」 又は「対象への作用をもたらすエネルギー,物質,情報,力の出力と、そのような出力の形成に用いる入力ならびに入力を出力に変換する動作」 となる。
具体的には、「Aに対してFする」又は「Aの状態をEにする」又は「入力Xに対する変換Tを行ない出力Yを形成し、出力Yを対象Aに与える」という 表現形式となる。ここで、出力Yを対象Aに与えることで、対象Aに対して作用Fをもたらし、対象Aの状態をEにするという関係がある。 機能は通常は「動詞」を用いて表現される。具体的には「部屋を加熱する」という記述では、対象Aは「部屋」であり、作用Fは「加熱」という関係に なる。加熱手段には、燃焼によって発生する熱を用いる方法もあれば、摩擦熱を用いる方法もあるし、太陽光を用いる方法もある。 しかし、機能は、その実現手段を問わないので、機能実現手段の内部構造を記述しない。
ここで、機能を「対象への作用をもたらすエネルギー,物質,情報,力の出力と、そのような出力の形成に用いる入力ならびに入力を出力に変換する動作」 という形式で表現する事が大変に重要である。なぜならば、この表現形式は「作用の原因」と「作用の原因の発生源」と「作用の対象」を記述している からである。そして、この表現形式によって複雑な機能構造を一貫して記述でき、結局は複雑な機能構造は作用の原因となる「エネルギー,物質,情報, 力」の流れのパターン(因果構造)を形成する仕組みにすぎず、本質は「エネルギー,物質,情報,力の流れのパターン」であることを示すことができるからである。

技術は、機能の実現手段となる。実現手段であるから、既存の機能やデバイスや方法を組合わせで表現する。できるだけ既存機能の組合せで表現する事で 汎用性のある技術表現となる。このように技術を表現する方法の中でも、作用をもたらすエネルギー,物質,情報,力の流れに着目する事で、 技術がいかにして機能を実現し、その機能がいかにして顧客価値となる状態をもたらすかが明確にわかってくる。

請求項は新たな機能構造であり、その新たな機能構造によって価値が発生することの因果構造を認識できるように記述されねばならない。 したがって、請求項の記述は既存機能の組合せで表現されねばならないし、その組合せの記述は価値ある状態を形成する作用をもたらす「エネルギー,物質,情報,力の流れのパターン」 が明確に認識できるようになっていなければならない。 もしも請求項の記述に用いる要素機能の中に、既存機能ではないものが入っていると、請求項の記述は未知の内容を含むことになり、内容が確定できず、 請求項で表現される新たな機能構造によって価値が発生することの因果構造を認識できないからである。 その意味で、「機能的クレーム」という表現形式は、既存機能でないものを請求項の記述の中に含んでしまい、請求項の内容を不確定にしてしまう危険がある事に留意が必要である。
特許戦略メモに戻る      前ページ      次ページ

(C) Copyright 2010 久野敦司(E-mail: patentisland@hotmail.com ) All Rights Reserved

戦略のイメージに合うフリー素材の動画gifを、http://www.atjp.net からダウンロードして活用しています。