300. 自社実施特許中心主義は気楽過ぎて、事業貢献できない考え方である
特許出願は、他者の活動を制御する能力としての特許権を獲得することを主たる目的に行なう。
そして、他者の活動を制御するためには、特許権の権利範囲内に他者の活動の対象である物や方法が入らねばならない。
しかし、特許出願時点以前に、出願して獲得を目指す特許権の権利範囲内にそのような物や方法があっては、特許権は獲得できない。
そこで、必然的に、特許出願前には他者の将来の活動の対象に関する予測をすることが必要となる。
この予測とは、「出願して獲得を目指す特許権の権利範囲内に、他者の活動の対象となる物や方法が入るであろう。」というものである。
このような予測をするためには、何らかの根拠や仮説が必要となる。
そのような仮説の中で他者の技術動向の調査分析を必要としないという意味で楽な、次の仮説Aと仮説Bがある。
仮説A: 自社実施予定の技術を他者も実施するだろう。
仮説B: 自社実施技術を他者がまねた場合に、自社実施技術だけでもカバーする特許権を保有していれば、他社製品を排除できる。
仮説Aと仮説Bを適用することによって、「自社製品等に競合する他社製品等を排除するために、自社実施予定の技術を中心に特許出願をする」
という方針が導き出される。
しかし、仮説Aは、「自社実施技術で実現する機能を、他者は別の技術で実現することも可能であり、そのような場合には自社実施技術だけを
カバーする特許では、他者を排除できない。
そして、同じ機能を別の技術で実現した他者と自社が市場で競争して自社事業が脅かされたとしても、
自社実施技術だけをカバーする特許権では自社事業を守ることはできない。」という事を考えていない。
市場での競争を気楽に考えているとも
言える。
また、仮説Bは、「自社実施技術だけをカバーする特許権は権利範囲が狭い。すなわち、権利範囲を規定する請求項の構成要素が多く、しかも
、それらの構成要素は多くの限定条件を含む。
そのような狭い権利範囲に入っていることを立証するための立証負担は大きく、侵害立証の壁が厚い。
その結果、そのような狭い権利範囲の特許権では、自社実施技術をまねた他者製品であっても侵害排除する事は困難である。」という事を考えていない。
侵害立証の困難性を気楽に考えているのである。
すなわち、自社実施技術だけをカバーする特許権を獲得すれば良いという考え方は、二重の意味で気楽で無責任な考え方だとわかる。
これはまるで、日本国憲法の前文にある「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」という気楽さと同じ気楽さであり、
一党独裁で拡張主義の独裁国家の存在を無視した考えと同じく、
前提としている仮説が間違っており、現実世界には全く通用しないのである。
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