284.事業において、競争優位性の確保と大量普及を両立させる戦略(技術の困難度への対応が本質)
●困難度の高い技術は高い顧客価値と高い競争優位性を備えることになる場合が多い。
なぜならば、困難度の低い技術は簡単に模倣や普及がされて競争優位性の低い「普及技術」になってしまうが、困難度の高い技術は
普及しにくいために競争優位性を保てる場合が多いので、困難度の高い技術の中の高い顧客価値提供ができるものは、高い顧客価値と高い競争優位性を
兼ね備えることになるのである。
●困難度の高い技術には、次のようなパターンがある。
@広大な敷地や莫大な電力のような巨大な資源を必要とする技術。
A特殊な設備や特殊技能者の存在を必要とする技術。
B膨大なデータの蓄積を必要とする技術。
C膨大な組合せの中から希少な使える組合せを抽出することを必要とする技術。
D構成要素(部品または工程)間の関係を微妙に調整して初めて動作させることができる装置や方式の技術。
E膨大な部品や工程の複雑な組合せや調整に関する膨大で正確な知識を必要とする技術。
●困難度の高い技術は、普及が遅い。普及が遅い技術を必要とする製品は大規模には生産できないし、多様な製品の開発も生産もできない。
すなわち、困難度の高い技術を用いた製品の事業や産業は、何らかの工夫をしない限り、普及の困難度が原因で大きく成長させることはできないのである。
困難度の高い技術を早く大規模に普及させるための方策には次のようなものがある。
A:必要とする巨大な資源を、多数の人や企業が利用可能なインフラとして運用する。
B:特殊な設備や特殊技能者が果たす機能や能力を、汎用的で安価な高機能装置で実現できるようにする。
C:必要な膨大なデータを使用可能なシステムを構築して、その膨大なデータの利用を促進する。
D:膨大な組合せを自動的に実行し、その組合せを自動的に評価し、良い組合せを自動的に抽出する自動組合せ装置を利用可能とする。
E:構成要素間の微妙な関係を自動制御して最適な関係を自動的に形成し維持できる自動制御装置を利用可能とする。
F:膨大な部品や工程を、相互関係が疎ないくつかのモジュールに分割し、モジュール間のインタフェースを標準化するとともに、モジュールの組合せレシピや、モジュールの組合せを
容易にするプラットフォームを豊富に提供する。
●困難度の高い技術に基づいた競争優位性の確保と、困難度の高い技術を早く大規模に普及させるための方策の矛盾を克服しながら、事業を発展させる仕組みを形成することが必要である。
そのためには、次のような戦略が必要である。
MA: Aの実行において、インフラの提供を独占しながらインフラからの高い利益を維持できるように、インフラの規模の拡大、インフラの能力の拡大、インフラの利用アプリの拡大を図っていく。
MB: Bの実行において、高機能装置の内部で高機能を実現できるコアの部分を独占してコアの利益率を高く維持しながら、高機能装置の安価大量普及を図る。
MC: Cの実行において、膨大なデータを秘密にしながら膨大なデータを競合よりも高速に増やしていき、そのデータの利用サービスの安価大量普及を図る。
MD: Dの実行において、自動組合せ装置のコアである「組合せの評価機能」の秘密の確保と独占を図りながら、自動組合せ装置の安価大量普及を図る。
ME: Eの実行において、自動制御装置を高い利益率を維持しながら独占をしつつ、その自動制御装置を組み込んだ各種のアプリケーションシステムの安価大量普及を図る。
MF: Fの実行において、システムを構成する多数のモジュールの中の、1個以上の少数個のモジュールにおいては、前記AからEの戦略の少なくとも1つを適用したモジュールを設定する。
●(オープン|クローズ & モジュラー|インテグラル)のフレームワークは、結局のところ、高い顧客価値を提供できる製品における「技術の困難度への対応策」を
表現する1つのフレームワークを示している。すなわち、上記の分類で言えばMFのフレームワークがこれに相当する。
●すなわち、戦略としてMFだけでなく、MA〜MEも「事業において、競争優位性の確保と大量普及を両立させる戦略」なので、ケースに応じてこれらの実行にも注力すべきである。
技術で勝って事業で負けるという事にならないようにするための戦略として参考サイトでも「インテルインサイドモデル」に代表される戦略であるMFに注目が集まっている。
しかし、戦略はそれだけではない事に留意して、幅広く思考すべきである事と、
本質は「困難度の高い技術に基づいた競争優位性の確保と、困難度の高い技術を早く大規模に普及させるための方策の矛盾を克服しながら、事業を発展させる仕組みを形成すること」であると、
明確に認識することが必要である。
【参考サイト】
(1)総合科学技術会議 第42回知的財産戦略専門調査会議事録
(2)産業構造ビジョン2010
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