235.自社発明の、自社と他社の実施規模の時間関数から導出する特許価値と独占排他指数
自社発明Pの特許価値Vを、発明Pの自社実施規模の時間関数S(t)および他社実施規模の時間関数C(t)の関係式として
どのように記述できるかを考察してみる。
簡単のために、発明Pの特許出願の日をt=0のタイミングとする。
また、自社実施したとしても新規性喪失の例外規定の適用は受けないとする。
また、発明Pの実施とは、発明Pの特許出願の請求項に含まれる範囲の技術の実施であると定義する。
発明Pの特許権の登録の日をt=Gとし、特許権の満了日をt=Eとする。
1. 出願日よりも前に発明Pを公然実施していた場合には、その発明Pの特許出願は新規性が無いために特許価値はゼロと
なるので、次の式が成立する。
S(t)+C(t)のt<0の範囲の積分値を、∫【t<0】{S(t)+C(t)}dtと記述するならば、次の式
が成り立つ。
IF [∫【t<0】{S(t)+C(t)}dt>0] THEN V=0
2. 出願日から、発明Pの特許権の登録日Gまでの自社実施規模の合計をM1とすると、次式が成立する。
M1=∫【0≦t≦G】{S(t)}dt
出願日から、発明Pの特許権の登録日Gまでの他社実施規模の合計をM2とすると、次式が成立する。
M2=∫【0≦t≦G】{C(t)}dt
発明Pの特許権の登録日Gから特許権の満了日Eまでの自社実施規模の合計をM3,他社実施規模の合計をM4とすると、
次式が成立する。
M3=∫【G<t≦E】{S(t)}dt
M4=∫【G<t≦E】{C(t)}dt
(1)発明Pの登録日Gの前後での自社実施規模の拡大率が、他社実施規模の拡大率よりも十分に大きいなら、自社事業を保護する機能としての
発明Pの特許価値が大きい。
式で表現すると、次のようになる。
IF [(M3/M1)≫(M4/M2)] THEN V=大
(2)発明Pの登録日Gから満了日Eまでの他社実施規模が大きければ、実施料収入をもたらす機能としての発明Pの特許価値
は大きい。αを獲得した実施料収入での実施料率として、式で表現すると、次のようになる。
V=α×M4
発明Pの特許価値Vが小さいと判断できる場合には、次のものがある。
(3)発明Pの登録日Gの前後で、自社実施規模の拡大率よりも他社実施規模の拡大率の方が大きい場合である。式で表現
すると、次のようになる。
IF [(M3/M1)≪(M4/M2)] THEN V=小
(4)発明Pの特許権が成立したにもかかわらず、自社実施規模の拡大率が他社実施規模の拡大率よりも小さく、しかも他社
実施規模の拡大に応じた実施料収入も得られていないならば、知財部門の事業貢献の大きさが少ないと思われる。
式で記述すると、次のようになる。
IF [(M3/M1)<(M4/M2)&& α×M4==0] THEN V=小 && 知財部門の事業貢献の大きさ=小
特許権の登録日t=Gを中心とし、出願日t=0および特許権の満了日t=Eの両者を越えない範囲の期間幅wをパラメータとし
て、発明Pの特許権の独占排他指数Hの算出式を設定してみる。
すなわちwは、0<w<Gおよびw<(E−G)を満足する範囲で設定する。
ここで、wをパラメータとしてM1(登録日前の自社実施規模),M2(登録日前の他社実施規模),M3(登録日後の自社実施規模),
M4(登録日後の他社実施規模)を次式で定義する。
M1(w)=∫【(G−w)≦t≦G】{S(t)}dt
M2(w)=∫【(G−w)≦t≦G】{C(t)}dt
M3(w)=∫【G<t≦(G+w)】{S(t)}dt
M4(w)=∫【G<t≦(G+w)】{C(t)}dt
ここで、M1(w)>0かつM4(w)>0の場合に、次式で独占排他指数Hを定義する。
H(w)=(M3(w)/M1(w))/(M4(w)/M2(w))
= (M2(w)・M3(w))/(M1(w)・M4(w))
H(w)は、発明Pの特許登録日Gを境にして、前後wの幅の期間における自社実施規模の拡大率が他社実施規模の拡大率の何倍に
なったかを示す指数である。H(w)が1よりも大きいwが存在する場合には、発明Pの特許権の独占排他機能が事業に貢献した
期間があったと考えることができる。
特許権の登録日の前後における自社実施規模のシェアの拡大率として、独占排他指数Hを次式で定義することもできる。
H(w)=(M3(w)/(M3(w)+M4(w)))/(M1(w)/(M1(w)+M2(w)))
=(M3(w)・(M1(w)+M2(w)))/(M1(w)・(M3(w)+M4(w)))
この定義式の場合でも、H(w)が1よりも大きいwが存在する場合には、発明Pの特許権の独占排他機能が事業に貢献した期間
があったと考えることができる。
独占排他指数H(w)が1よりも大きい値となるwの範囲において最大のwの値をwmaxとする。そうすると、このwmax
は、発明Pの特許権の事業貢献の期間であると考えることができる。
発明Pが、特定の商品カテゴリーの全体をカバーするような広い権利範囲の特許権(いわゆる、基本特許)となるようなもの
である場合、発明Pの自社実施規模の時間関数S(t)および他社実施規模の時間関数C(t)の立ち上がり時期は、出願の
時点であるt=0から5年から10年は遅れることが多い。しかし、この立ち上がり時期の遅れがあっても、知財部門が発明P
が将来は大きな実施規模の市場の全体をカバーする基本特許となると予測することが出来れば、自社実施も他社実施もしていな
いという出願から数年(5年から10年程度)の間にあっても、審査請求や外国出願や中間処理などを行なうことができる。
他社や市場よりも大きく先行したパイオニア発明でもあるために基本特許となる発明Pは、自社も他社もなかなか実施しない
ために正当な価値評価をされず、その後大きく花開くというようなシンデレラ物語のシンデレラのようなものである。
知財部門は、不遇時代のシンデレラを救い出す白馬の王子のようにありたいものである。
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