211.自社の事業領域外での自社のコア技術の特許権侵害への対処

自社のコア技術は、自社の事業の競争力と成長の源泉の1つである。コア技術を用いて、事業領域を 拡大させていき、コア技術と自社の組織を鍛え、コア技術を中心とした様々な知識や外部チャンネルを 蓄積していくことが必要である。
そのような時に、自社の事業領域外(同じ事業分野で商品のポジショニングが異なる場合も含む)に おいて自社のコア技術の特許権を侵害する他社を発見した場合の対処が問題となる。
短期的な視点でこれを見れば、現在の自社事業に悪影響が無いのであるから、そのような他社は放置 するか、妥当なロイヤリティを相手が支払うことを条件にコア技術の特許権のライセンスをすれば 良いという判断もあり得る。
しかし、中長期的に見れば、自社の将来における事業領域を、自社と同じコア技術を自社の特許権を 侵害して実施している他社を放置しているなら、次のような悪影響が発生すると判断できる。
(1)自社のコア技術の競争力を阻害する。
(2)自社のコア技術に基づいた社員の誇りと士気を低下させる。
(3)自社の特許戦力の対外的な評価を下げ、特許権による威圧効果を減少させ、将来の事業リスクを 増大させる。
(4)他社が将来、自社のコア技術と同じコア技術を用いて自社の事業領域にまで乗り出してくる 危険性を増大させる。

このように考えると、自社の事業領域外ではあっても、自社のコア技術を自社の特許権を侵害して 実施する他社は原則的には、排除すべきであるという結論になる。(例外として、厳格な範囲の 許諾製品の範囲内でのみ実施許諾することもあり得る)

問題は、自社の事業領域外での他社事業を排除した後に生じる事業空白領域に自社の商品なりサービス を提供するかどうかということである。

その事業領域に確かに、顧客がおり、市場が存在しているので他社が事業をしていたのであるから、 基本的には、その事業領域にも事業拡大をしてコア技術と自社の組織を鍛えるべきである。
もしも、市場があり顧客がいる市場から他社を排除するだけで、自社が適切な製品やサービスを提供 しないとなると、それは企業が社会の公器であるという事に反することになるとともに、最悪は 不実施に基づく通常実施権の設定の裁定(特許法第83条)の適用を受けることもあり得る。

コア技術戦略の実行にはこのような覚悟も必要となる。
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