201.(IPオフィサー心得)研究開発テーマ選定段階での特許情報の活用方法
1. 研究開発の対象の技術、その技術で実現しようとする機能に関する他社の先行技術の情報を特許情報
から得て、それを用いて研究開発すべき対象技術の選定や変更をすることは必要である。
特に、競合企業や顧客企業の技術開発の方向を、公開特許公報の【発明が解決しようとする課題】の
欄の記述をもとに把握することは、自社の研究開発の対象技術を決める上で大変に有益である。
ただし、公開特許公報に記載の技術は必ずしも、実際の商品やサービスで実施する技術であるとは限ら
ないことと、1年6ヶ月以上前の時点での事柄である事に留意すべきである。
実施の可能性のほとんどない発明の特許出願の情報に惑わされて、競合企業や顧客の技術開発の動向、
ニーズの動向を見誤らないようにすることも必要である。
そのために、次の観点が活用できる。
(1) 外国出願がされているような重要な特許出願に記載の発明は実施される可能性が高い。
(2) 図面が詳細で、具体的なものである特許出願に記載の発明は実施される可能性が高い。
(3) 実施される可能性の高い発明が記載された特許出願と、発明者の重複と【発明が解決しよう
とする課題】の重複が大きい特許出願に記載の発明は実施される可能性が高い。
(参考資料1を参照)
2. しかし、膨大な特許情報の洪水に幻惑されて、みすみす有望な技術の開発をあきらめる事の無いようにし
なければならない。
研究開発のターゲットとする技術の内容をぼんやりとしか、把握していなければ、ターゲット技術の
範囲が広く表現されてしまう。その結果、先行技術調査の範囲がやたらに広がってしまい、あたか
も多数の競合技術が、自社のターゲットとなる技術分野に敷き詰められているかのように錯覚してし
まう。
そうすると、競合技術を細かく分析して、自社が本当に必要としているターゲット技術における自社
と他社の特許パワーの比較をする前に、そのターゲット技術の研究開発をあきらめてしまうという事
も起こりかねない。
開発しようとする技術によって実現したい機能、その機能が顧客や社会にもたらす価値が明確であり、
しかも、開発しようとする技術が対象機能の実現方式として、他の方式よりも圧倒的に優れているこ
との確信を持てるような研究開発テーマを設定すると、膨大な特許情報の洪水の水位は急激に低下し、少な
い件数の他社特許だけが注意すべきものとして残るというようになる事が多い。
3. 研究開発テーマを審査するのではなく、研究開発テーマを育て強めるという姿勢を知財部員は持たねばならない。
「他社がこんな基本特許を持っているから、この研究テーマはやっても無駄ですよ」とか、
「他社の特許件数が膨大にあるので、この分野に乗り出すのは無謀です」という事を安易に知財部員は
主張すべきではない。
技術者と一緒になって、他社の特許網をかいくぐる方策や、他社の特許網を無力化する方策を考える
ことを優先すべきである。特に、自社のコア技術に基づいて、自社の新しい柱となる事業を育てようと
いう戦略的な研究開発テーマについては、知財組織の中から大きなマンパワーを投入してでも、
他社の特許網をかいくぐる努力をすべきである。(参考資料2を参照)
キャノンがゼロックス社の特許網をかいくぐって複写機事業を確立した事例を模範とすべきである。
【参考資料】
1.知財戦略事例集 第20ページから22ページの事例1,2,3,4,5
2.書籍: 特許戦略論 第2章特許戦力
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