176.請求項の読み方(その1)
請求項を読む目的には、次のようなものがある。
(1)請求項に記載された発明の内容を理解する。
(2)請求項と公知文献の比較をして、請求項記載の発明の新規性や進歩性を判定する。
(3)請求項と特定の製品の技術内容を比較して、侵害の有無を判定する。
(4)請求項の品質を評価する。
(5)請求項に記載された発明の技術的な分野を特定する。
(6)請求項に記載された発明と実施の形態に記載された発明の対応関係を把握する。
(7)請求項で表現された特許権を武器として活用する場合のパワーを把握する。
(8)請求項で表現された特許権の金銭的な価値を評価する。
(9)請求項に記載された発明をもとに、実施の形態に記載する内容を詳細に設計する。
(10)請求項に記載の発明に類似した技術を記載した文献やウェッブサイトを検索する。
請求項を読む上で大変に重要な原則に、「権利一体の原則」というものがある。
これは、特定の技術が請求項に記載の技術的範囲に含まれると判断するためには、請求項に記載のすべての
技術的要素を、その特定技術が備えていることが必要であるという原則である。(参考サイト1,2,3参照)
請求項は、複数個の構成要素と、請求項末尾に記載の発明の名称からなる。
簡単化して記載すると、「AとBとCを備えるX」という構造が請求項の一般的なものである。
権利一体の原則とは、A,B,C,という3つの構成要素とXという発明の名称に記載の条件をすべて備えて
いて初めて、比較対象の技術は、その請求項に記載の技術的範囲に含まれるということである。
したがって、請求項の読み方において、構成要素の抽出は極めて重要である。請求項の読み方のステップ
は次のようになる。
ステップ1: 請求項を複数個の構成要素と発明の名称に分割する。
請求項の中の構成要素の抽出には、構成要素の記述形式についての次のような傾向を用いることができる。
参考サイト4の論文にて説明されているように、請求項の構成要素を意味内容にまで踏み込まない表層的で
形式的な分析で抽出できる場合が多い。例えば、次のようなものがある。
- 改行によって明示的に構成要素が区分されている場合
- 区切り符号である「、」や「,」で構成要素が区切られている場合
- 「〜と、」という表現で構成要素を区切っている場合
- 構成要素の末尾にある構成要素名が「手段」という記述で終わっている場合
- 空白行の挿入によって、構成要素が区分されている場合
しかし、このような形式的な基準で構成要素の抽出ができない場合には、請求項の中で使用されている名詞
に着目し、それらの名詞の中で構成要素名と言えるものを意味分析から抽出することで、構成要素を
抽出することが、必要となる。この時、請求項が名詞句である複数個の構成要素から構成された名詞句となっ
ており、構成要素の内部がさらに複数個の名詞句である構成要素で成り立っている場合があるという知識
が役に立つ。
ステップ2: 各構成要素の末尾に記載の名称である構成要素名を抽出し、請求項を規定するキーワードで
ある発明の名称、各構成要素名を把握する。
このステップ2までで、請求項に記載の技術内容を理解せずとも、機械的な判断で前記の目的を達成できる
場合がある。これは、ある程度のリスクを覚悟すれば大量の特許文献を素早く処理可能な方法論である。
それを下記に説明する。
(1)比較対象の公知文献に存在しない技術を示す構成要素名が請求項にある場合、その請求項はその公知
文献によっては、新規性を否定されない可能性が高いと判断できる。
(2)比較対象の製品に存在しない技術を示す構成要素名が請求項にある場合、その製品はその請求項を
侵害しない可能性が高いと判断できる。
(3)抽出した構成要素名と発明の名称の全部または一部を用いて、請求項に記載の発明に類似した技術を
記載した文献やウェッブサイトを検索することができる。
(4)構成要素名と発明の名称を表示して、発明の内容を直感的に表現することができる。
(注) 構成要素名、発明の名称を類義語、上位概念語、下位概念語に広げて上記の処理をする必要がある。
ステップ3: 各構成要素および発明の名称に記載の技術的内容を詳細に分析して、請求項記載の発明の技術的範囲を特定する。
請求項は大変に読みにくいが、構成要素に分割して構成要素ごとに技術内容を分析することで、理解が容易
になる。構成要素は、構成要素名と、構成要素名の前に記述された説明部分からなる。この説明部分で他の
構成要素名を参照していた場合には、参照された構成要素名を持つ構成要素との間に何らかの関係が存在
することが判明する。
ここまでの分析で、構成要素間の参照関係が判明するので、1つの構成要素を1つのブロックとして図示する
とともに、参照関係にある構成要素をリンクを示す線で結合することで、請求項に対応したブロック図を
作成することができる。このようなブロック図を「クレーム対応図」と呼んでいる。クレーム対応図は請求項
に記載された発明を理解する上で、大変に重要である。
構成要素の説明部分で使用されている用語や構成要素名は一般的な国語辞書や専門用語辞書で、その意味を
確定する。
しかし、その用語の定義が一般的な国語辞書や専門用語辞書に記載されていない場合や、その用語の使い方
から見て、一般的な国語辞書や専門用語辞書での定義とは異なる意味を与えられているものであった場合に
は、明細書にその用語の定義となるものを探したり、明細書でのその用語の使用部分を抽出して、その用語の
意味を確定させていく。
その特許出願の権利化の過程で提出された意見書などで、その用語の意味にさらに限定を加えて、その特許出
願における発明の特許性を主張していた場合などでは、その意見書でのその用語の意味に限定して意味解釈す
る。
このようにして、各構成要素に記載の技術的な内容を把握する。このような深い分析の結果、構成要素の
内部にさらに複数個の構成要素が存在する多層構造が判明したり、構成要素間の結合関係を示すリンクの属性
が詳しく判明して、クレーム対応図が詳細化する。
ステップ4: 比較対象である公知文献や対象製品の技術と請求項を構成要素ごとに比較
する。
ステップ2では、表層的な分析で処理をしていたが、ここではステップ3で行なった詳しい分析と深い理解の
もとで、技術比較の処理を行なうことになる。
比較対象の技術にあてはまらない構成要素があれば、比較対象の技術は原則として、請求項に記載の技術的範囲に
含まれない。
構成要素ごとの比較によって、請求項記載の全部の構成要素を比較対象の技術が保持している場合には、さら
に構成要素間の結合関係と同じ結合関係を比較対象の技術が保持しているかどうかをチェックする。
クレーム対応図を用いたチェックが有効である。もし、クレーム対応図で表現された構成要素間の結合関係の
全部が比較対象の技術にあれば、その請求項は比較対象の技術を含むことになる。
しかし、比較対象の技術には見出せない構成要素があったり、比較対象の技術には見出せない構成要素間の
結合関係があった場合には、その請求項は比較対象の技術を含まないことになる。
【参考サイト】
(1) 発明の分析(特許明細書に記載する素材の解析)
(2) 特許請求の範囲
(3) 権利解釈方法と明細書
(4) 手がかり句を用いた特許請求項の構造解析
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