153.自社実施特許中心主義について

自社製品で実施している発明を中心に特許出願を行ない、自社製品をカバーする特許権を中心に権利取得と 権利維持をするパテントポリシーをここでは、「自社実施特許中心主義」と呼びます。
自社実施特許中心主義は、「自社製品で実施している技術と同じ技術を、競合製品も使用する可能性が高い ので、自社製品をカバーする特許権を取得しておれば、自社製品の事業を競合から守ることができるだろう」 との仮説を前提にしています。
しかし、この仮説は、「同じ機能を別の技術で実現する競合製品」や「同じ機能を類似技術で実現する 競合製品」には適用できず、たいていの場合、自社実施特許中心主義では競合製品排除をできないことになり ます。
自社製品の競合製品は、自社製品と同じ技術を使用するとは限りません。

自社実施の範囲だけを中心とした特許権は、たいていの場合、請求項の構成要素数が多く権利範囲が狭いため 、侵害発見や侵害立証が困難であったり、侵害回避が容易な場合が多くなります。
その結果、自社実施特許を侵害する他社製品の発見や発見後の権利活用のコストパフォーマンスが大変に 悪化しますので、自社実施特許の権利活用を最初からあきらめ、自社特許を自社実施していることを定期的に 確認して、自社実施しなくなったものは放棄するというだけになっていきます。
このような状況で、さらに、自社実施特許を中心に権利化を図っていると、次のような事態になってきます。

すなわち、権利活用することがないまま特許権が集積されていきますので、維持年金の負担が多くなってきま す。そうすると、自社実施特許ではあっても権利放棄をする特許権が増えてきます。
自社製品に対しては、自社特許の権利活用はできませんし、自社実施特許中心主義では他社製品への権利活用 のコストパフォーマンスが悪化しますので、特許権の活用はほとんど行なわれなくなります。
その結果、権利活用を経験したことのある知財部員がほとんど存在しなくなり、権利活用の方法論や判断基準 も組織から消えていきます。
また、事業部門や経営から見た場合、本当に存在しているかどうか知財部門でさえ判らない「競合他社に監視負 担や回避負担を課す」という自社実施特許中心主義の効果を実感できないため、知財に対する事業上や経営上 の期待が次第にしぼんでいき、知財部門への人材や予算の割り当ては減少していきます。
このような事の結果、自社事業を知的財産権の独占排他機能で守るべき時が来ても守れなくなります。

なぜならば、自社実施特許を中心に権利化する評価基準を採用していると、例えば5年や10年先になって やっと事業化するような基本発明は、出願後の5年から10年は低い評価となり、審査請求も外国出願もして いないという状況となっており、権利範囲が広く、しかも権利行使するための立証負担が小さく、侵害回避 困難な強力な特許権である基本特許を保有できていないということになってしまうためです。

そして、自社実施特許中心の貧弱な特許権を、権利行使能力が衰えた知財部門が使用するという状況になって しまいますので、事業を特許権で競合製品から守らねばならない、いざという時に動けない知財部門ということ になります。

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