125. 善意のライセンシーに、合算実施料率上限制度が必要

現在の特許システムでは、1つの製品Pに関わる特許権がN件ある場合、各特許権について通常の実施料率αを 独立に課すことができる。その結果、N×αが製品Pの利益率βを越えることもあり得る
しかし、製品Pについて合理的な他社特許調査などの侵害回避策を実行したにも拘わらず、N件の他社特許を侵害 してしまう事は大いにあり得ることである。特に、 特許爆発が発生している分野や、用語が混乱していて同義語や 類義語が入り乱れていて、正確な特許調査が困難な分野では、このような事が起こる確率は大きくなる。
善意のライセンシーであっても、利益率βを越える実施料率が課される可能性がある現在の特許システムは、 侵害摘発されて実施料を払わざるを得なくなるまでは、実施料を支払わないという悪意の特許権侵害者を誘発する。
本来、特許システムは悪意の特許権侵害者を誘発するようなものであってはならないはずである。
悪意の特許権侵害者を誘発させないためには、善意のライセンシーが安心して実施料を支払える特許制度であ るべきである。
そのためには、善意のライセンシーが1つの製品Pに関して支払う特許の実施料率の合計には、製品Pの分野で決まる 所定割合γを上限とするという制度(合算実施料率上限制度)を適用することが良いと考える。ただし、γ<βである。
合算実施料率上限制度のもとでは、製品Pについての第1番目の特許権B1によるライセンスが与えられたときは、 B1には実施料率γが適用される。
次に第2番目の特許権B2によるライセンスが追加された場合、B1にもB2にも実施料率γ/2が適用される。
このように善意のライセンシーに、合算実施料率上限制度が適用されると、普通の企業であれば善意のライセンシー となり、実施している特許発明に積極的に適正な実施料を支払おうとする。そうなると、特許権者は権利行使 における多大な出費をしなくても、妥当な実施料を得ることができるし、ライセンシーは必要な最先端技術を 安心して実施しても事業利益を残すことが可能となるので、特許制度は好循環に入る。

合算実施料率上限制度を実現するためには、自社製品と他社特許の請求項の比較方式や比較手順を標準化する ことで、合理的な他社特許調査の方式を明確に決め、合理的な他社特許調査をして特許権者に実施料支払いの アクションを行なう善意のライセンシーの要件を明確にすることが必要である。
請求項記述言語で自社製品の技術構造を記述し、請求項記述言語で記述された請求項からなる特許データベースを 自社製品の技術構造で検索する方式を、合理的な他社特許調査方式と規定することも可能である。

特許戦略メモに戻る      前ページ      次ページ

(C) Copyright 2006 久野敦司(E-mail: patentisland@hotmail.com ) All Rights Reserved

戦略のイメージに合うフリー素材の動画gifを、http://www.atjp.net からダウンロードして活用しています。