116. 特許無効化の成功確率を考慮した、権利行使に使用する特許権の構成と件数

絶対に無効にならないと言い切れる特許権はほとんど存在しないと思います。なぜなら、特許権の権利化の 過程で参照される公知文献は、本当に数少ないものだからです。いくら多くても100件も参照されていな いはずです。すなわち、審査の過程で参照されていない文献が山ほどあるのです。非特許文献、特にハード カバーの書籍に掲載されているものはほとんど参照されていません。また、非日本語、非英語文献もそう です。非英語圏の技術先進国であるロシア、ドイツの文献には、権利化の過程で参照されなかった重要文献 が数多くあるはずです。
したがって、特許権の権利行使を受けた側が必死になって、多額の費用と労力を注いで、さまざまな言語の さまざまな文献やWebページなどを調査すると、たいていの場合に特許権の請求項の一部または全部を無 効にできる無効資料が見つかるものです。
私の少ない経験からみると、必死で多額の調査費用を投入すれば無効資料の発見確率は約80%です。
投入する調査費が大きければ、無効資料が見つかる可能性は高くなりますが、投入される調査費や人員には 上限があります。この上限を規定する金額には、次のようなものがありますが、どれに基づいて決まるかは、 事業状況や経営判断との関係で様々です。数万円ということもあれば、数千万円ということもあります。

(1)その特許権を無効にできなかった場合に支払うことになる金額
(2)その特許権によって影響を受ける事業部門または技術開発部門が用意できる金額
(3)特許調査費として用意していた予算の金額

もし、ある1社からN件の特許権による攻撃を特定の1つの製品が受けたとします。権利行使を受けた側は、 本当に侵害しているとしたら、N件全部を無効にできなければ、負けです。
そうすると、権利行使を受けた側が負けない確率は、N件の全てを無効にできる確率となり、それは1件の特許 権の無効化の平均確率を80%と仮定すると、0.8をN回掛け算した値となります。
N=1の場合: 全部無効化できる割合=0.8 (すなわち、80%)
N=2の場合: 全部無効化できる割合=0.8×0.8=0.64 (すなわち、64%)
N=3の場合: 全部無効化できる割合=0.8×0.8×0.8≒0.51 (すなわち、51%)
N=4の場合: 全部無効化できる割合=0.8×0.8×0.8×0.8≒0.41 (すなわち、41%)
N=5の場合: 全部無効化できる割合≒0.33 (すなわち、33%)
N=6の場合: 全部無効化できる割合≒0.26 (すなわち、26%)

このようにみてきますと、権利行使を受ける側からみますと、攻撃に使用された特許権が5件を越えてくると、 争っても負ける可能性が高いし、特許権の調査分析に要する費用が大きいということで、戦意が減退すると、 言えます。
したがって、攻撃する側からみると、確実に勝つためには5件程度の特許権は束にする必要があるということ です。しかし、攻撃に用いる特許権の件数が多すぎますと、関連する人員や情報が多すぎて管理が困難になり ますし、交渉などの議論が無駄に長引きます。

攻撃に用いる特許権は、将棋の駒に例えると、飛車や角のような攻撃レンジの広い特許権を2件程度と、 金や銀のように攻撃レンジは狭いが技術の要点をカバーする渋みのある特許権3件程度の、計5件程度をそろえる のが良いと考えます。

【参考サイト】
(1) 松下電器 vs ジャストシステム 特許問題 (2)

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