11. 発明の抽出と物理法則の抽出の類似性
事業企画や、商品企画、商品設計の中から発明を抽出する行為は、自然現象の中から物理法則を抽出する行為に
類似していると思うことがよくあります。現実の事業や商品を作り上げていくには、実にさまざまな事柄を考え、多くの
人々との間の調整や調査、多くの問題点の解決が必要です。アプリケーションシステムのイメージを形成すること、
そのアプリケーションシステムに関する潜在顧客の特性を想定すること、潜在市場のボリュームを想定し、その想定の
裏づけをとること、競争関係にある現状の商品やサービスおよびそれらの将来の発展のシナリオを考察すること、
アプリケーションシステムとしての商品を実現するために必要な技術をリストアップし、それらが自社内にあるかどうか、
あったとして、そのプロジェクトに使用可能かどうか、コスト構造、ビジネスモデルは成り立つかどうか、規制や関係法令
にはどのようなものがあるか、商品開発の予算や人員の手配ができるかどうか、販売チャネル、生産体制の構築が
できるかどうかなど、多岐にわたっています。それぞれの項目が不確定性を含み、時間的に変化していきます。
そのため、事業企画、商品企画などの細部に入り込んで、具体的にそれを実現化しようとする業務に埋没すると、かえって
技術や商品の本質が見えなくなります。発明の抽出においては、社内の経営資源をいかに獲得するかとか、コスト構造など
は捨象します。純粋に、技術が提供する機能の目的と機能の実現手段に着目します。しかも、技術者や企画担当者が
述べる目的や機能を鵜呑みにはせず、それらのさらに背景にあるものを抽象化して表現していきます。抽象化して表現した
「技術の目的と機能」を具体的な下位レベルに展開することを間にはさんで、抽象化の妥当性を検証しながら、抽象化の
階段を昇っていきます。この作業によって、その事業企画、商品企画、商品設計などに含まれた新規の技術の中で、何が
本質としての「技術の目的と機能」であるかが把握されます。
この本質を把握することは、現実世界というさまざまな要因が関係しあって発生している複雑な現象の中から、物理法則を
発見していくことに類似しています。本質を抽出するための過程と、本質を抽出した後には、それを用いて予測や、複雑な
システムの構造を論理的に考察していくことができるという点も、発明の抽出と物理法則の抽出では類似しています。
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