92. 知的財産部門の組織構造の性質

特許戦力の最適配置の立場から見て、企業の知的財産部門の組織構造は、次のような性質を有するべきである。
(1)技術開発、事業企画、営業、生産の現場の生の情報が入手しやすいこと。
(2)出願、権利維持・放棄、権利活用、契約などにおける意思決定を迅速に行なえること。
(3)3年から10年先の技術や事業の予測に基づいた中長期的な戦略の立案や実行が行なえること。
(4)権利活用やリスク対応についてのノウハウが組織に蓄積できる程度のサイズの仕事量が確保できること。
(5)知的財産業務の知識も能力も実績もないが、予算配分と人事と規則制定の権限を有して知的財産部門全体を 統括するような官僚組織が発生しないこと。

(1)の条件を満たすために、知的財産部門を事業部や社内カンパニーに分散配置するということが行なわれるこ とが増えている。これは、(2)の条件の実現にも良い影響を与えるのであるが、(3)と(4)の条件を満足で きなくなる傾向を有している。事業の現場では、なかなか中長期的な業務に予算や人員を配置できにくいし、 分散された小さい組織単位では、権利活用やリスク対応を必要とする仕事が発生する確率が低いので、これらの業務 に必要なノウハウを蓄積できるだけの仕事量を確保できないためである。
また、知的財産部門を事業部や社内カンパニーに分散配置すると、本社に事務局的な知財部門を置く必要が発生する。 対外的な代表窓口の機能、全社に分散配置された知財組織を統括する機能が必要となるためである。
しかし、この事務局的な知財部門は知財業務をほとんど実行できないので、急速に(5)に記載するような官僚組織 に退化していくことになる。
このような官僚組織が知的財産部門の中枢に発生してしまうと、業務が内部向きのものや、経営層へのアピールを通 じた社内政治のものがほとんどになって来る。これは末期症状といえる。
このような末期症状を呈した知的財産部門の組織を立て直すことは、大変に困難である。なぜならば、末期症状の 原因となっている組織が権力を有しているので、あらゆる改革を拒否するためである。

理想的な知的財産部門の組織とは、企業の中枢に集中配置されているが、技術開発、事業企画、営業、生産の現場 との距離が近い物理的なロケーションに配置され、現場のメンバーと密接に情報交換し、現場の仕事が成功することを目的に業務 を行なうというものである。
そして、事務局的なメンバーを知的財産部門を配置する場合には、それらのメンバ ーには決して、予算配分,人事,規則制定の権限を与えないようにすべきである。これが、官僚発生という病気に 知的財産部門が感染することを防止するために決定的に重要な事項である。
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