86. 訴訟能力と特許情報管理体制
訴訟能力は、特許戦力のパワーを決定づける非常に重要な能力である。いくら、特許権そのものが強力であっても
、訴訟能力がなければ、侵害者が侵害の事実を認めなければ、特許権がないのと同じ状況となる。訴訟能力とは、
訴訟を提起する能力と勝訴する能力である。訴訟の提起は、裁判所に対する簡単な手続でできる。しかし、訴訟を
提起するとの社内の意思決定のための社内手続が、大企業では大変である。特に、訴訟経験のない企業や、事なか
れ主義がはびこっている官僚主義的な体質の会社では、訴訟提起はほぼ不可能である。訴訟を提起するということ
は、日本ではよほどの事がない限り避けるべきものとされている。「訴訟沙汰」という言葉が示すように、訴訟を
せざる負えない状況になるという事は、担当者の交渉力の欠如を示すとみなされる。
また、断固とした強い態度をとらず、相手と妥協して和解するほうが、柔軟な態度であり大人の態度であるとみな
す風土がある。従って、事なかれ主義の大企業では、訴訟は実質的には提起できない。従って、特許権侵害をされ
ていても見逃す事となる。そのような企業の特許部門では、特許権の行使という本来業務ができないので、特許権
を事業のための有力な武器であるとはみなさなくなる。従って、そのような企業での特許部門は本来は存在価値が
ないのである。しかし、そのような特許部門のメンバーも、何かの活動をしている。特許出願や権利化をしたり、
業界団体での活動や各種の統計資料作成や教育啓蒙活動という副次的な活動を中心にするようになる。
特許情報の管理体制は、特許戦争での攻撃や防御のスピードを決定する。攻撃をするにしても、防御をするにして
も、彼我の戦力の比較を素早く行ない、特許の内容を素早く読み取って、作戦を立案し、実行する事が重要である。
そのためには、商品分野ごとの自社特許や他社特許をパテントマップの形態にまとめておき、簡単にアクセスでき
るようにしておく事が重要である。どんなに良い特許権を持っていても、特許情報の管理体制が悪いと、そのよう
な特許権の存在に気付かなかったり、間違えて年金の支払いをしなかったり、審査請求をし忘れたりして、権利を
捨ててしまうことにもなる。また、競合企業に対して活用すべき特許権を抽出できなかったりする事にもなる。こ
れは、保有する特許権の数が多ければ多いほど顕著になる。また、簡単に特許情報にアクセスできる体制をとって
いても、特許戦争での攻撃や防御の業務に重きを置かず、業界団体での活動や各種の統計資料の作成や配布に重き
を置いた人事評価をしていると、見栄えの良いプレゼンテーション資料の作成ばかりが重宝され、特許戦争での攻
撃や防御のための特許情報の利用は、されなくなっていく。
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