80. 知的財産部配属の新人を鍛える一方法の考察

知的財産部配属の新人にとって、特許業務の基礎として、知的財産権法の知識ももちろん必要ですが、 発明抽出能力の方が、事業上ではもっと重要です。(ここで言う発明抽出能力は、良い発明を抽出し、それを請求項として表現するということですので、発明の価値評価能力と、発明の表現能力も含まれます)

野球に例えれば、簡単にわかりますが、知的財産権法の知識は野球というゲームのルールを知ることに相当 します。それに対して、発明抽出能力は、バッターボックスに立ったバッターがピッチャーの投げるボールの球筋を見極め、バットで打つことに相当します。発明抽出能力が劣っていれば、出願段階、中間処理段階、権利活用段階のすべてに支障をきたします。たとえば、素晴らしい発明や特許権を捨ててしまったり、価値の低い発明に多額の金額を投入して権利化しようとしたりすることにもなります。

発明に限らず、会議で話し合われた事柄においても、重要な事柄と重要でない事柄があります。新人に議事録を作成させると、その新人の持つ「本質抽出能力」がわかります。
●会議で話されたすべての言葉をほとんどそのまま議事録に記載するが、何が重要な事柄であるかという会議の結論を記載しないタイプもいます。
●逆に、会議で話し合われた事柄の中身を記載せず、話し合われた事柄の項目名称を羅列するだけの議事録を作成するタイプもいます。
●また別のタイプには、何でも抽象化し、あいまい化して記載し、結局何が会議のポイントであったのかがまったくわからない様な、ぼやーとした議事録を書くタイプもいます。
●本質をついた簡明な文章を結論として記載するとともに、その結論に関係する具体的な事柄の中の最重要な事柄を補足説明として記載するというタイプもあります。


会議の議事録においても、請求項においても、本質的な事柄をいかに抽出し、簡明に記述するのかということに帰着します。したがって、知的財産部配属新人に各種の議事録を作成させることは発明抽出能力にもつながる本質抽出能力の鍛錬につながります。

ここで、重要なのは指導者が「本質的な事柄」をどう把握して、新人に指導するかということです。
具体的には、次のような判断基準で本質が抽出できると考えます。


(1) 会議の目的、発明の目的に直結する事項は本質的な事柄である。
(2) 言うまでもない事、すなわち暗黙の了解事項、常識的事項は本質的な事柄ではない。
(3) 新しい事柄、新しい情報は重要であり、本質的な事柄である可能性が高い。ただし、(1)に該当せず、新しくても本質では無いこともあります。
(4) 問題解決のための適用範囲が広く、しかも明確に表現されており、それに基づいて具体的な行動を計画できるものが、本質的な事柄である。


何でもあいまいに表現する傾向の人がいますが、そのような人には物事の本質抽出はできないと考えます。適用範囲が広く、しかも明確であり、それに基づいて具体的な行動を計画できるものの代表例が「物理法則」です。ニュートンの導いた力の法則である F=m×a という簡明な法則の持つ明確性と適用範囲の広さは衝撃的です。マックスウェルの電磁気の方程式もそうです。 会議の中での会話の中から原理、法則、哲学、知見、戦略などを、明確で適用範囲の広い情報として抽出することを、新人が肉体感覚で身に付けるように指導することが、必要です。 これは、発明抽出能力にもつながる本質抽出能力です。このような本質抽出能力を知的財産部配属の新人に獲得させることに失敗した場合、次のような者が知的財産部に増加することになりかねません。

(1) 言われたことの範囲の事務作業だけをこなす事務屋タイプ
(2) やたらに社内規則を量産したり、統計をとってグラフをつくったり、予算獲得や配分などに熱中する官僚タイプ
(3) 法改正、判例の情報を追いかけて勉強をするのだが、勉強の成果を事業に生かせない勉強家タイプ
(4) 外部や社内の委員会活動はやるが企業に貢献する活動をほとんどしない委員タイプ
(5) 何もしないで放心状態の枯木タイプ

何が本質であるかを探究し、本質を明確で適用範囲の広い表現で記述できる能力を鍛える事が、重要です。
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