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396. 知財業務の1つの夢の形

注) 本論考のPDFファイル

本年、平成30年(2018年)は平成時代の最後の年です。私は平成の最初の年(1989年)の直前から知財業務を開始しました。
そこで、平成の時代の最後の年の最初の月である平成30年1月に、私が思う「知財業務の1つの夢の形」を明確な文章に残したいと思います。

● 「基本発明の創造に貢献し、基本発明を基本特許に仕上げ、基本特許を産業および事業の創造に大きく活用する」が、知財業務の1つの夢の形です。

まず、基本発明と基本特許を次のように定義します。
基本発明とは: 全く新しい観点や発想によって、過去からの技術を組み合わせたものであって、同じ機能の実現のための代替手段が他になく、 しかもその発明を起点として多くの新技術や応用分野が生まれると見込める発明です。

基本特許とは: 目的とした機能の範囲であれば、考えられる全ての主要な実施技術もカバーする請求項で権利取得した特許権です。

「知財業務の1つの夢の形」を詳しく説明します。

1. 知財業務を実行する者による「基本発明の創造に貢献」とは:
発明者の創造した発明の実施例や発明品の中にある基本発明を見逃さずに抽出して、明確な文章など(例:請求項、請求項+クレーム対応図)で表現することが第1段階です。
発明者の発言やメモの断片の中にある基本的なアイデアの芽を見逃さず、そのアイデアの芽を明確な文章などにして発明者にフィードバックし、発明者が基本発明の実施例や発明品の創造に到達するように支援することが第2段階です。(参考サイト1)
創造したい産業や事業の未来像を自ら発想して、その事業や産業の未来像のために必要な基本発明を創造して明確な請求項および充実した実施例も作成することが第3段階です。(参考サイト2)


逆に、知財業務を実行する者がやってはならないことは、先見性の高い「基本発明」を、すぐには自社実施しないので、価値のない発明であると誤認識して粗末に扱う事や、自社実施発明を優先するあまり基本発明の抽出や創造を最初から放棄することです。(参考サイト7、8)

2. 知財業務を実行する者による「基本発明を基本特許に仕上げる」とは:
基本発明を、できるだけ上位概念で明確に表現するとともに、公知技術を含まず、権利活用しやすい請求項で表現して、特許出願することが第1段階です。(参考サイト3)
第1段階に加え、権利行使の対象行為をさらに拡大するために請求項のカテゴリーや権利範囲の拡大を図り、そのために不足している実施例の追加を促すことが第2段階です。
第2段階に加え、事業や産業の発展段階を予測し、各発展段階ごとに必要な特許を構想してパテント取得計画マップを作成して、その計画に基づいて組織を動かして、基本特許を含む特許群を取得することが第3段階です。

3. 知財業務を実行する者による「基本特許を産業および事業の創造に大きく活用する」とは:
自社が保有する基本特許を抽出するとともに判り易く、その権利範囲と産業及び事業における意義を社内外に示すことで、その基本特許を活用した産業や事業の企画の立案に貢献することが第1段階です。(参考サイト4)
第1段階に加え、その産業や事業の成長に必要な技術標準やプラットフォームを構想するとともに、それらの実現に必要な企業や大学や公的機関などからなるコンソーシアムの実現に貢献することが第2段階です。
第2段階に加え、コンソーシアムを通じてオープンにする技術の仕様を制御するための特許権の活用と、クローズする技術を支配するための特許権の活用にて、自社事業に貢献することが第3段階です。(参考サイト5)
第3段階に加え、基本特許を産業創造に活用するために必要な法改正や新法制定の構想や国家戦略を提起することが、第4段階です。(参考サイト6、12)

しかし、「基本特許を産業および事業の創造に大きく活用する」においては、「産業および事業の創造」が目的であって、「基本特許の活用」は目的ではない事を肝に銘じなければなりません。 すなわち、知財業務を行なう者も、自分を「産業および事業の創造」を行なうチームの一員であるが、たまたま知的財産業務に詳しいだけだという自己認識を持つことが必要です。 また、知的財産権は法的には「独占排他権」という形態をとっていますが、知的財産権の存在目的は知的財産を独占排他することでは無く、知的活動空間から経済活動空間に知的財産を流して経済活動空間における価値創出の活動を活発化させるとともに、 知的活動空間での知的財産の創造を促すという秩序を実現することです。(参考サイト13)

「知財業務の1つの夢の形」を実践するためには、知財業務を実行する者は、知的財産権法の知識だけでは全くの不足であり、自らの「発明能力」も磨くとともに、他者の発明プロセスを指導できるようになることが必須です。(参考サイト9)

上記のような「知財業務の1つの夢の形」を、知財と言う観点を離れてマクロに眺めますと、それは「世界の資源の新たな結合パターンの提供に貢献することで、世界の資源の結合の質を高めるととともに、結合の多様性と範囲を拡大させる触媒機能」を果たしていることがわかります。

経済活動を通じた「資源の流通と交換」は、マネーの流れを伴なうことで、現在価値および将来価値の多様な評価のもとで、実現されています。
すなわち、マネーを取り扱う金融は、「資源の流通と交換に必要な信用を提供することで、世界の資源の結合の質を高めるととともに、結合の多様性と範囲を拡大させる触媒機能」を果たしていることがわかります。(参考サイト10)
今後、金融機関は必然的に前記の「知財業務の1つの夢の形」の実現能力をも必要とすることになります。なぜならば、IoTとAIの発展によって金融機関は単なる取引仲介機能や資産保管機能だけでは競争できなくなるからです。
これは、知財業務の主要な舞台が製造業から金融機関にまで拡大していくことを意味します。
そして、「世界の資源の結合の質を高めるとともに、結合の多様性と範囲を拡大させる触媒機能」は、ますます高速回転をして、文明の進化はさらに加速していくことになります。(参考サイト11)
そのためには、知財業務を実行する者は、「知財業務の1つの夢の形」の各要素である「基本発明の創造に貢献」と「基本発明を基本特許に仕上げる」と「基本特許を産業および事業の創造に大きく活用する」とを、 高いレベルで実行することが必要となります。

【参考サイト】
1. コンセプトオーガナイザー
http://www.patentisland.com/memo188.html
2. イノベーションオーガナイザ
http://www.patentisland.com/memo220.html
3. 請求項の設計方法
http://www.patentisland.com/memo314.html
4. 特許情報の戦略的保管の方法
http://www.patentisland.com/memo37.html
5. 事業発展のための特許戦略論
http://www.patentisland.com/patent_strategy_theory_for_business_development.pdf
6. 第4次産業革命のためのIoT戦略
http://www.patentisland.co.jp/IoT_strategy_for_4th_Industrial_revolution.pdf
7. 特許権の獲得の困難性と、特許権の活用の可能性の2つの軸での自社実施特許と基本特許の比較
http://www.patentisland.com/memo306.html
8. 自社実施特許中心主義について
http://www.patentisland.com/memo153.html
9. 発明発想モデルと、アイデアノートの使用方法
http://www.patentisland.co.jp/invention_process_model.pdf
10. 知識、労働、マネー、権利と知的財産権
http://www.patentisland.com/memo111.html
11. 「新産業構造ビジョン」骨子(案)(2017年5月19日現在)について
http://www.patentisland.com/memo386.html
12. 自由民主党IT戦略特命委員会 IoTの世界におけるセンシングデータ流通市場の重要性
http://activeictjapan.com/pdf/20160324/jimin_it-toku_document_20160324.pdf
13. 知的財産権は知的財産の流通と利用の秩序を実現する知的パイプラインシステムを形成する
http://www.patentisland.com/memo169.html

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