337. イノベーションは非線形制御であり、オペレーションは線形制御である
センサーネットワークで国境を越えて地域も社会もつなぎ相互に相手の置かれている環境を知りつつ情報交換と商取引を行なうことで、地球を1つの村のようにし、
しかも光合成住宅で各家族は最低限の住居とエネルギーと食料は自給自足できる状況を整備することで、戦争の原因をなくし、人類が次の段階の知的存在に進化できると考えている。その理想を実現するために、イノベーションを起こし続けたいと、私は思っている。
目先の利益と安楽を求めるだけの人々が、イノベーション創造の活動に参加しないのは仕方がない。
問題は、イノベーションを阻害する人々の存在である。
イノベーションを阻害する人には、大きく分けて2種類ある。
1種類目は、リスク負担を相手に押し付けながら、利益獲得を求める人である。これらの人はイノベータの味方のような顔をして近づき、イノベーションの産み出す
権利や利益だけを盗み取ろうと虎視眈々と狙いながら、イノベーションの成果が現れるのを待っている。本質的には泥棒である。
2種類目は、イノベーションの達成時期や達成の内容の確実性や投資対効果の妥当性の保証を求める人である。この人たちは善意者であるが、イノベーションが
不確実性との戦いであるという本質を理解しておらず、PDCAサイクルを回せば目標の達成ができると考えて、イノベーションをつぶしてしまう。
すなわち、参考サイト1に記載のホンダイノベーション魂や書籍「ホンダ イノベーションの神髄」で言うところのオペレーション派の人である。
オペレーション派の人は言わば線形制御をしようとしているのである。評価指標における現在値と目標値のギャップが、状態空間での現在位置と目標位置の
差に比例するという線形な世界を前提にしている。線形な世界では、現在位置を目標位置に移動させるために必要な投資量が、評価指標における現在値を目標値に上昇
させるという効果をもたらすことが確実に予測できるし、現在位置から目標位置までのルートは簡単に求まる。評価指標が大きくなる方向に移動するだけで良い。
イノベーションは、非線形な未開拓の世界でのルート探索であり、単純に評価指標が大きくなる方向に移動すれば目標とする評価指標値を実現できる位置に到達できるような
簡単なものではない。特に、状態空間がどのような構造をしているのかも不明で、不確実性が高く、急に谷があったり、穴があったり、そびえ立つような壁があったりする。
本当に目標値が達成できる位置が存在するのかどうかも判らないという状況である。まさに、非線形制御の世界である。
そして、イノベーションのコアは利益や安楽ではなく、
真・善・美・愛の達成への強烈な執念と情熱である。すなわち、高い志である。(書籍:イノベーション戦略論)
イノベーションのこのような本質を理解することなく、非線形制御をすべきものに、線形制御を当てはめようとしてイノベーションをつぶすのが2種類目のオペレーション派の
人々である。
企業は、創業者というイノベータが立ち上げるが、事業や経営が安定するとオペレーション派の人々が多数となり主導権を握る。
しかし、オペレーション派が主導権を握ると衰退が始まる。イノベーションによる価値創造ができなくなるためである。価値創造ができなくなると、確実に滅びる。
オペレーション派主導の経営の典型が経理主導経営であり、価値創造のエンジンが無いので、グライダーのようにスマートに滑空しながら高度を下げていき、最後は地上に落ちる。
しかし、経営者の一部には経理主導経営の数値と理論に基づいたスマートさに目を奪われ、高度を下げていることに気づかない人もいる。
企業内でのイノベーション部隊であるべき、企画部門や戦略部門が予算管理や人事管理ばかりに注力しているならば、その企業は確実に経理主導経営に劣化しており、滅亡は近い。
オペレーションを基準に考えると、イノベーションはオペレーションが前提としている線形な世界が適用できない未踏領域にまで、適用範囲が広がった新たな技術やビジネスモデルや
方法を創造する行為である。したがって、イノベーションでは線形な世界の限界に存在している穴や崖や谷や絶壁を乗り越えるという誰もやったことの無い努力をする必要がある。
例えば、自動車という2次元平面上の移動手段が適用できる世界では走行時間や燃料の使用量に比例して、走行距離が伸びていくという線形の世界である。しかし、自動車では
海や川や谷は渡れない。2次元世界からみると海や川や谷は特異点である。ここで、橋を谷にかけるというイノベーションを実現すれば、走行時間や燃料の使用量に比例して走行距離が伸びるという線形世界が実現できる。
他にも飛行機というイノベーションを実現すれば、海も乗り越えて目的地に行ける。そして、走行時間や燃料の使用量に比例して走行距離が伸びるという線形世界が飛行機という手段の
導入で実現できる。橋も飛行機も3次元世界での手段である。2次元平面の範囲では存在しない。すなわち、線形なオペレーションが適用できない限界を突破するために、新たな次元を
導入し、その次元を加えた高次元の世界での解決手段をイノベーションでは導出しているとも言える。
それは、数学的に言うと、「特異点解消」という問題を解くことに相当する。広中平祐は次元の低い世界での特異点という非線形性をもたらすものであっても、適当な次元を追加して得られた
高次元空間では特異点ではなく、線形なオペレーションが適用できるものが必ず存在するという定理(特異点解消定理)を証明した。(参考サイト2)
出典: 参考サイト2(1)
すなわち、広中平祐の特異点解消定理に基づいて、イノベーションについて次の事が言える。
線形世界を対象とした線形制御であるオペレーションの適用限界を超えて、非線形世界にまで人類の活動領域を広げるためには、オペレーションが前提にしていた世界の次元に適切な次元を追加した
高次元空間を想定し、その高次元空間における新たな手段を見つけるというイノベーションが必要であり、そのような手段は存在する。
そして、そのような手段の発想を行なう方法の1つとして、等価変換理論とTrizを融合した理論のアイデアを、参考サイト3の第40ページから第49ページに記載した。
線形制御と非線形制御を組み合わせて状態空間を探索するという方法論として状態空間ナビゲータというものを発明したことがある。
【参考サイト】
1. ホンダイノベーション魂
第1回 厳しくも楽しいイノベーション
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/FEATURE/20111115/201616/
第2回 絶対価値を実現する
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/FEATURE/20111115/201617/
第3回 なぜ他社の顔色を見る
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/FEATURE/20111115/201618/
第4回 なぜ上司はイノベーションに反対するのか
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/FEATURE/20130228/268804/
第5回 執行派がイノベーションを潰す
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/FEATURE/20130228/268805/
第6回 決断しない役員
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/FEATURE/20130228/268806/
2. 広中平祐の特異点解消定理
(1)数学って面白い 広中平祐
http://blog.livedoor.jp/enjoy_math/archives/50588392.html
(2)代数幾何と学習理論
3. 特許戦略における創造性と感性
http://www.patentisland.com/2012-03-02.ppt
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