250. 「共同発明者認定基準」と、仮想アイデア出し会議実験

共同発明者となり得る場合の具体例を文献などに基づいて、まずは明確化する。
参考サイト1の資料は、2003年(平成15年)の産業構造審議会 知的財産政策部会 第6回特許制度小委員会 配付資料である。
この資料に記載の内容に基づくと、共同発明者となり得る場合の具体例としては、次の場合を示している。

1. 提供した着想が新しい場合は、着想(提供)者は発明者である。(参考サイト1の第2ページ)

ただし、着想者が着想を具体化することなく、そのままこれを公表した場合は、その後、別人がこれを具体化して発明を完成させ たとしても、着想者は共同発明者となることはできない。両者間には、一体的・連続的な協力関係がないからである。
したがって、この場合は、公知の着想を具体化して発明を完成させた者のみが発明者である。
(注)ここで言う「着想の提供」とは、「課題の提供又は課題解決の方向づけ」と定義されている。

2.新着想を具体化した者は、その具体化が当業者にとって自明程度のことに属しない限り共同発明者である。

3.発明の特徴点(@〜D)を指摘した上で、@、Dを着想したAと、B、Cを着想したBとの共同発明であると判断した例(Aに関しては、どちらが着想した か定めることはできないと認定)

上記のような共同発明者認定基準からみて、「仮想アイデア出し会議実験」を対象に、誰が発明者といえるのかとか、アイデア出し会議の進行の問題点や改善手法 を検討することができる。

まず、この仮想アイデア出し会議の参加者をA氏、B氏、C氏、D氏とする。
仮想アイデア出し会議は、次のように進行したとする。

フェーズ1: 既存商品の発展の歴史を振り返り、発展の方向を予測する議論をする。

A氏: ラジオという商品分野は、最初は無線受信機能と音声信号復調機能と音声信号増幅機能が単に結合しただけの単純なものであり、ノイズに悩まされたり フェージングに悩まされたりしていたという記憶があるな。
B氏: そうだな。それが自動チューニング機能やら、チャンネル記憶機能などが付いたり、リモコンが付いたり、はたまた予約機能までついてきたんだ。
C氏: 便利になったものだな。しかし、機能が多すぎて、リモコンのボタンが多くて、何が何やらという状態で、使えていない機能がたくさんありそうだな。
D氏: 本官がいる場所は、電波が届きにくいのでラジオをPCにつないで、インターネットラジオ放送局からの音声をラジオで聞いているぞ。
A氏: Dさん、それだとラジオと言えるのかな。単なるスピーカになっているのでは? それと、本官はやめてもらえんか? もう自衛隊員じゃないんだろ。
D氏: すまん、つい昔の口癖がでてしまった。Aさん、無線受信機能がないとラジオと言えないという前提ではそうだが、インターネットラジオ放送局を受信する ものもラジオだと概念を拡張すれば、それもラジオだと思うよ。
A氏: そりゃそーや。トムソーヤ。すまん、わしも口癖が出てしまった。Dさんもたまには言いことを言う。もっと発想を柔軟にせねばいかん。
B氏: Aさん、Dさん、ラジオはインターネットラジオ放送も受信するものも含むように、進化するだろうということだな。それは良い着眼点だ。


フェーズ2: 課題抽出を行なう

A氏: Dさんよ。無線のラジオ放送とインターネットラジオ放送を同じ操作の中で統一的に受信選択してラジオ放送を受信して楽しめる機能というのは、 もしかしたら、新しい課題かもしれんな。もしそうなら、新しい課題を提供したDさんは発明者だ。
D氏: Aさんよ、相変わらず、すっとこどっこいだな。本官が言ったのは「ラジオをPCにつないで、インターネットラジオ放送局からの音声をラジオで聞いている」 という事だから、「無線のラジオ放送とインターネットラジオ放送を同じ操作の中で統一的に受信選択してラジオ放送を受信して楽しめる」という新しい課題を 設定したのはAさんじゃないか。
A氏: へっ。という事は、無意識にわしは発明をしていたのか? わしも相当にボケがきたのかもしれん。
C氏: 発明をするボケ老人なんか聞いたことがない。Aさんはボケてないよ。しかし、まだ発明が完成をしたとは言えんぞ。新しい課題の提供はできたのかもしれんが、 課題を解決するアイデアが出てないじゃないか。
D氏: そうだな。Aさんが指摘した「無線のラジオ放送とインターネットラジオ放送を同じ操作の中で統一的に受信選択する」という事を実現するアイデアが必要だ。 それでは、次は、それに的を絞って討議しようか? おっ、携帯電話に娘から呼び出しが来たので、ちょっと出てくる。

フェーズ3: 課題解決のアイデアの討議を行なう

A氏: 「無線のラジオ放送とインターネットラジオ放送を同じ操作の中で統一的に受信選択する」ためには、ラジオはインターネットにつながっていないといけないな。
B氏: だいたい、インターネットラジオ放送局というのは、いくつくらいあるんだ?
C氏: インターネットだと世界中が同じ条件でつながっているから、数千局から数万局はあるんじゃないか。そうすると、無線で受信しているラジオ放送のAMやFMのチャンネル に比べて莫大なことになるな。言語だってさまざまだろうし、ジャンルだって多数になる。
D氏: インターネットラジオだと、URLで指定されるが、無線のラジオ放送だと周波数で指定されるな。
A氏: URLで指定されているチャンネルからの放送は、メディアプレイヤーで再生して音声信号を出力し、周波数で指定されているチャンネルからの放送は、 通常のラジオのハードウェアで音声信号を出力して、スピーカに接続すれば良いな。
B氏: そうすると、ユーザはチャンネル番号さえ指定すれば、無線ラジオ放送なのか、インターネットラジオ放送なのかを意識する必要はなくなるということになる。
C氏: 膨大なチャンネルの中から、ユーザが日常的に使うチャンネルを選ぶのに、ジャンルと言語でのメニューか、検索機能が必須となると思うが、もっと良い方法は ないかな?
D氏: テーマとかライフスタイルという概念で日常的に使用するチャンネル群を簡単に設定するというのはどうだ?
A氏: 何だそのライフスタイルというのは?
D氏: そうだな、「田舎暮らしの理科系じいさん」というライフスタイルにぴったりのチャンネル群をあらかじめ用意しておき、ユーザはライフスタイルを選ぶというものだ。
B氏: 「田舎暮らしの理科系じいさん」て言うと、加山雄三か? それなら、「田舎暮らしの理科系じいさん」のチャンネル群に加山雄三の顔画像をアイコンとして対応付け て表示するってのはどうだ?
C氏: ここまでの議論で、だいたい発明が完成したような感じになってきたと思うので、くじ引きで負けた人に来週までに、特許出願用の明細書と図面を書いてもらうので、 これを引いてくれ。
A氏: げっ、わしか。しょうがない。書いてくるか。明細書と図面を完成させれば、発明者になれるな。

【参考サイト】
1. 日本における発明者の決定
2. 特許/共同発明者の地位/クレーム限定中のある機能を示唆した者に対する判断基準

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