244.「防衛特許」という用語のもたらす誤解
特許業界で、「防衛特許」とか「防衛特許出願」という用語が使われることがあります。これらは、法律用語ではないのですが、
一般に次のような意味のものとして用いられています。(参考サイト1,2参照)
防衛特許: 特定機能Fに関する、自社製品Aにおける実施技術T1のみをカバーする特許権P1である。
自社が特許権P1を取得することで、他者がそのような特許権P1を取得して、自社の実施技術T1に対して権利行使してくることを
防止することと、他者が実施技術T1を模倣することを防止して、自社製品Aの事業を防衛することを目的とする。
他者が特許権P1を取得することを防止するという目的だけのための場合には、いち早く出願して公開することで、実施技術T1を
公知にして、他者が特許権P1を取得できないようにするということができます。その場合には、出願するだけで審査請求はしない
ということが行なわれやすくなります。
特許制度とビジネスに詳しい人は防衛特許は、その目的とする「防衛」をなかなか満足には達成できない場合が多いと知っています
が、あまり詳しくない人は下記のような事情が発生することの方が多いということを知らないで、「防衛特許」で自社製品Aの事業を
防衛できると思い込んでいる場合があります。
(1) 特定機能Fに関して、他者が技術T2を用いた製品Bを出してきたとします。製品Bは技術T2により、機能Fのコストパフォ
ーマンスが、技術T1を用いた製品Aよりも格段に高く実現されていた場合、製品Aの事業は製品Bに負けます。
しかも、特許権P1は製品Bに対して何の効力も持ちません。特許権P1は技術T1はカバーしますが、技術T2はカバーしないから
です。
(2)特定機能Fを実施技術T1で実現する場合の特許権P1を取得しても、特定機能Fに関する基本特許P0により、実施技術T1
の実施の差し止めを受ける場合がある。(特許法第72条)
(他人の特許発明等との関係)第72条
特許権者、専用実施権者又は通常実施権者は、その特許発明がその特許出願の日前の出願に係
る他人の特許発明、登録実用新案若しくは登録意匠若しくはこれに類似する意匠を利用するものであるとき、又はその特許権がその特
許出願の日前の出願に係る他人の意匠権若しくは商標権と抵触するときは、業としてその特許発明の実施をすることができない。
【参考サイト】
1. 「特許戦略の初歩その4」
2. 特許出願の大部分は防衛特許
特許戦略メモに戻る 前ページ 次ページ
(C) Copyright 2009 久野敦司(E-mail: patentisland@hotmail.com ) All Rights Reserved
戦略のイメージに合うフリー素材の動画gifを、http://www.atjp.net からダウンロードして活用しています。