241.特許パワー方程式による自社実施特許と基本特許の比較
基本特許を中心とした特許戦略が、自社実施特許を中心とした特許戦略よりも優位であることを、できるだけ
数学的に説明する。
着目した請求項の特許パワーについて、次の事が成立する。
@侵害立証に必要なコストが小さいほうが、権利行使をしやすい。
A侵害立証に必要なコストは、請求項の構成要素数に比例する。
B侵害立証に必要なコストは、各構成要素についての選択可能な可能性の件数に比例する。
C競合製品排除の成功可能性は、各構成要素についての選択可能件数が小さいほどに大きくなる。
D権利範囲内の製品の市場規模が大きいほど、権利行使に使える資源は大きくできる。
E権利範囲内の製品の市場規模は、各構成要素ごとの選択可能件数が大きいほどに小さくなる。
F特許パワーは、侵害立証に必要なコストが小さく、競合製品排除の成功可能性が大きく、
権利範囲内の製品の市場規模が大きいほど、大きい。
ここで、特許Aの構成要素数をNC(A)とし、特許Aの各構成要素の選択可能件数の積をNA(A)とする。
そうすると、次の式が成立する。
特許Aの侵害立証に必要なコストであるCI(A)=K1・NC(A)・NA(A)
特許Aの競合製品排除の成功可能性であるPF(A)=K2/NA(A)
特許Aの権利範囲内の市場規模であるMV(A)=K3/NA(A)
そうすると、特許Aの特許パワーPOWER(A)については、次の式が成立する。
ここで、K1,K2,K3は比例係数である。
POWER(A)=MV(A)・PF(A)/CI(A)
={K3/NA(A)}・{K2/NA(A)}/{K1・NC(A)・NA(A)}
={K3・K2/K1}/{NC(A)・(NA(A)^3)}
ここで、K={K3・K2/K1}とおくと、特許パワーPOWER(A)は次式となる。
POWER(A)=K/{NC(A)・(NA(A)^3)}
たとえば、同一の機能の実現のために自社も他社も実施せざる負えない独占性の高い基本特許をPとする。
そして、同一の機能の実現のために自社は実施するが他社は代替技術で実施でき、自社と他社の相違は
性能やコストの相違または複数の性能間のバランスであるような自社実施特許をQとする。
その場合、請求項の構成要素数については、NC(P)=4,NC(Q)=8とする。
そして、請求項の各構成要素についての選択可能件数の積については、NA(P)=1,
NA(Q)=4とする。すなわち、Qの構成要素の1つについて選択可能件数が2であり、さらに他の構成
要素の1つについて選択可能件数が2であるとすると、選択可能件数の積は4となる。
ここで、基本特許Pと自社実施特許Qに関する侵害立証に必要なコストは、次のようになる。
CI(P)=K1・NC(P)・NA(P)=K1・4・1=K1・4
CI(Q)=K1・NC(Q)・NA(Q)=K1・8・4=K1・32
すなわち、このケースでは自社実施特許Qにおける侵害立証に必要なコストは基本特許での侵害立証に必要な
コストの8倍になる。
次に、競合製品の排除の成功可能性について、基本特許Pと自社実施特許Qについて比較する。
PF(P)=K2/NA(P)=K2/1
PF(Q)=K2/NA(Q)=K2/4
すなわち、自社実施特許Qでは競合製品排除の可能性は基本特許Pの4分の1となる。
また、カバーする市場の規模について基本特許Pと自社実施特許Qを比較する。
MV(P)=K3/NA(P)=K3/1
MV(Q)=K3/NA(Q)=K3/4
すなわち、自社実施特許Qがカバーする市場規模は基本特許Pがカバーする市場規模の4分の1となる。
そうすると、基本特許Pと自社実施特許Qのそれぞれについての特許パワーは、次の式となり、基本特許P
の特許パワーは自社実施特許Qの特許パワーの128倍となる。
POWER(P)=K/{4・(1^3)}=K/4
POWER(Q)=K/{8・(4^3)}=K/512
このように、競合製品をカバーせず自社製品だけをカバーする自社実施特許は、競合製品も自社製品もカバー
する基本特許に比較して特許パワーが大変に小さい。
そのため、自社実施特許で自社の事業を守ることは、ほとんど期待できない。
なぜならば、自社実施特許は侵害立証コストが大きく、侵害回避容易であり競合製品排除の成功可能性が小さく、
しかもカバーする市場規模が小さいので、特許パワーが大変に小さい。
そのため、自社実施特許では権利行使を試みようとすることがほとんど出来なくなり、単に保有するだけとの
状態となり、侵害されているかどうかの確認作業も行なわれなくなる。
これは逆に言うと、競合企業がそのような特許権を獲得しても、その競合企業もほとんど権利行使を試みる
ことが出来ないので、脅威となる場合はほとんど無いということを意味する。
構成要素数が小さく、各構成要素について選択可能件数が小さい基本特許を中心とした特許戦略を実践すべき
ことがわかる。
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