215. イノベーション創造の一歩手前での停滞パターン
技術やアイデアは、イノベーション創造に十分なだけあるのに、一歩手前で停滞する場合が多数
存在する。それらは、いくつかのパターンに分かれ、それらの中には適切な処方をすれば、
イノベーション創造に向かって歩みを再開すると思えるものもある。
1. インフラと、インフラアプリの間のデッドロックのパターン
インフラを構築する者は、対価を支払うインフラの利用者がいなければインフラを構築してもインフラ
投資を回収できない。
インフラを利用したアプリケーションでの事業をしようとする者は、インフラが確実に創造されるという
ことがないと、アプリケーションの事業開始に向けた投資ができない。
この様なパターンで、相互に必要としている者どうしなのに、最初の不確実性を乗り越える決断が
できずに、デッドロックに陥って、イノベーションに向けた活動が出来ないケースが多い。
2. 市場探索のための投資が決断できないパターン
十分な規模の市場の発生や、その市場での自社の競合優位性の見込みがたたねば、技術開発や商品開発、
その後の事業開発のための各種の投資が決断できないという場合には、市場探索が必要になる。
しかし、市場探索のためであっても、例えばプロトタイプの開発の投資や、マーケティングのための
活動の投資(展示会出展、顧客訪問や市場調査分析など)が必要となる。
この市場探索のための投資決断に過剰な量と種類の情報を要求したり、過剰な確実性のある情報を要求
すると、市場探索すらできず、その後の技術開発から事業開発への投資もできない。このようにして、
イノベーションがブロックされることが、チャンレンジ精神を失った企業では発生する。
3. 自社の既存事業が障害となって新規事業の創出ができないというパターン
自社の既存事業と新規事業が何らかの分野で対立するか、経営資源の取り合いになる場合、または
必要とする企業体質が相反するような場合、既存事業が強いと新規事業の創出ができないということ
が発生する。たとえば、新規事業が既存事業の顧客の事業と競合する部分を有する場合、新規事業の
ために必要な技術者を既存事業分野から異動させる場合、中央集権的な組織体制を新規事業のためには
フラットで自律分散的な組織体制にする必要がある場合などである。
4. 他社の有力な特許権の存在が原因で事業進出ができないパターン
他社の有力な特許権が、無視できない件数存在している事業領域の場合、その特許権で権利行使され
て、実施料を支払うことになった場合に、事業の採算が合わないということで、せっかく良いアイデア
や技術を持っていながら事業進出の決断ができないという場合がある。
有力な特許権を有する他社は、ライセンスの申し込みがあれば、妥当なロイヤリティ率でライセンス
するつもりだったとしても、そのような意図は外からはわからないし、表明していたとしても信用できな
いと思って、事業進出をあきらめてしまうという場合もある。
5. アプリケーション実現には自社に要素技術がいくつか不足しているパターン
画期的な要素技術は開発できたのであるが、その要素技術を用いて採算と成長性のある事業を実現する
には、他社の要素技術も必要であるが、それらの他社の要素技術をそろえるための提携がうまくでき
ないために、せっかくの自分の画期的な要素技術を事業に実現できず、そのためにその要素技術の高度化や拡大が
できないという場合もある。
6. 社会的な規制がイノベーションを阻んでいるというパターン
電波における周波数帯の使用規制、医療の分野における人の死の判定の基準、センシング情報の活用
におけるプライバシー保護と著作権による規制、国民総背番号制が導入できない社会規範、などのような
社会的規制の存在そのもの、または社会的規制の内容の解釈が不明確であること、社会的規制の将来が
予測困難であること、などにより、イノベーション投資が事業創造に結びつくとの確信が持てないため
に、イノベーション投資が行なわれないという場合もある。
7. 導入開始のための条件として、導入実績を求められるというパターン
これまでに無い機能やサービスを提供する事業や、既存の機能やサービスをこれまでに無い方式で、
大変に安かったり高速に提供する事業について、顧客となる側が、その有効性や信頼性に疑問を持ち、
導入開始のための条件として、導入実績を求めるという場合がある。導入してもらわないと、導入実績
というものを示せないのに、導入開始する際に導入実績を求められると、最初の導入先への導入までの
障壁が大変に高くなる。
8. 予算策定や組織改変の時期との整合がとれず、イノベーション実現への歩みが消えるパターン
ある企業の事業に、ある大学のシーズ技術を導入すれば、その企業の事業は大きく進展し、イノベーション
がおきるはずなのに、その企業の予算の策定の時期は過ぎてしまっているので、1年程度は待たないと、
実際の行動ができないということが頻発する。その1年程度の期間を待っている間に、そのイノベーション
実現の計画を担当していた企業内の人が転属してしまったり、大学側の担当教授が別の研究テーマ
に重点を移したので、イノベーション実現への行動ができなくなるという場合もある。
他にもパターンはあるが、上記の各パターンは、外部からの何らかの適切な働きかけがあれば、突破
できて、イノベーション創造のプロセスを再開させることができる。
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