209.商品やサービスは機能の提供のための媒体であり、技術は機能の実現手段である
商品やサービスを利用する人は、その商品やサービスが提供する機能を必要としているので、利用
しているのである。例えば、ラジオという商品では遠隔地から無線放送された音声信号を受信して音声
出力するという機能を使っているのである。
この機能を実現するためには、さまざまな技術が必要となる。例えば、アンテナである。伸縮する
ロッドアンテナでそれを実現するメーカーもいるだろうし、誘電体アンテナで実現しようとするメーカー
もいるだろう。また、コスト、寸法、耐環境性、組み立てのしやすさなどの、ユーザーがあまり意識しない
部分についても、機能の実現を支え、品質レベルを一定以上にするための様々な技術が用いられて、
商品やサービスが実現されている。
商品やサービスには、「中心機能」というものがある。その機能が欠けていると、名前を付け替えねば
ならないというような、カテゴリーを規定する機能である。
例えば、ラジオでいうと、「遠隔地から無線放送された音声信号を受信して音声出力する」機能が無くなって
しまえば、いくらリモコンで音声出力のボリューム調整ができる機能だけが残っても、もはやラジオ
とは言えなくなる。逆に言うと、「遠隔地から無線放送された音声信号を受信して音声出力する」機能が
あれば、リモコンで音声出力のボリュームを調整する機能が無くても、それはラジオと言える。
そうすると、「リモコンで音声出力のボリュームを調整する機能」というものは、ラジオでは補助機能
ということになる。
商品カテゴリーの黎明期(導入期とも言う)では、中心機能の優劣が事業競争のポイントとなるが、商品カテゴリーの
成長期では補助機能の追加競争が起こり、より使いやすく、より面白くというような付加価値を実現
する機能が、どんどんと追加されていく。
成熟期では、補助機能の追加競争はほぼ終息し、ブランドイメージ、外観デザインの競争とコストダウン競争
が同時並行的に行なわれるようになる。衰退期では、その商品カテゴリーの中心機能を脅かす他の
商品カテゴリーの発生に伴い、コストダウン競争が主なものとなっていく。
こうしてみていくと、中心機能をカバーする特許権である基本特許の獲得とその活用が、事業利益の実現にとって大変に重要であるとわかる。基本特許の獲得と活用を、商品カテゴリーの
黎明期(導入期)で行なうことが、成長期と成熟期にわたっての高い市場シェアと高い利益率の実現に
大きく寄与する。そして、そこで獲得した利益や技術を持って、衰退期では早めにその市場から撤退し
て、他の有望で新しい商品カテゴリーの中心機能の実現のための技術開発と商品化に、一番手として
進むことが、技術経営としては良い方策である。
このようなことが、実行できるためには、@有望で新しい商品カテゴリーを構想できる(当然、中心機能の構想を含む)
マーケティングの能力、Aその商品カテゴリーの中心機能を高い品質と性能と市場に受け入れられるコストでいち早く
実現できる高い技術力、B衰退期に入り事業利益に貢献できなくなった事業から素早く撤退できる
決断力、が組織能力として必要となる。
組織を動かすには、ビジョンと論理と裏づけとなるデータが少なくも必要であるし、それらを用いた
説明と説得と指揮命令と組織改変を実行する組織能力が必要となる。
すなわち、市場や顧客が将来において必要とする中心機能をいち早く洞察し、中心機能の商品としての
実現をいち早くできる技術を持ち、その中心機能をカバーする基本特許を取得し活用するということが、
理想形である。
このように、商品でもなく、技術でもなく、中心機能を起点として技術経営を回転させることが重要である。
なぜなら、「商品やサービスは機能の提供のための媒体であり、技術は機能の実現手段である」から
である。
【参考サイト】
1. 入出力を中心とした機能表現と動詞を中心とした機能表現の比較と分析
2. 機能表現と機能別方法調査
3. 機能オントロジーに基づく工学知識の体系化と流通支援
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