198.1級知的財産管理技能士(IPオフィサー)と弁理士(IPエージェント)の役割の違い

1級知的財産管理技能士(IPオフィサー)は、企業の継続的な事業利益に知的財産戦略の実行で貢献 することが役割である。
すなわち、1級知的財産管理技能士は、企業の意志決定の中枢で、所属企業の事業、技術、特許の現在を理解し 、将来を予測するとともにビジョンを描き、事業の発展と経営体質の改善を実現するための戦略を 知的財産権の立場に軸足を置きながら事業、技術、経営の立場のメンバーと共に実行する。

それに対して、弁理士(IPエージェント)は企業の外部にいて、特許庁への手続きの代理、各種の法的技術的な見解の提 供を、専門的で客観的な立場で行なう。

野球に例えれば、1級知的財産管理技能士はプレイヤー又は監督であるが、弁理士は審判に相当す る。

そのため、1級知的財産管理技能士には知的財産権法に関する知識以外にも、事業の立場から発明を評 価する目利き能力、競合企業と特許権で戦うための特許戦略実践能力、社内のイノベーションを促進 すると共に技術を事業利益に結びつけるMOT能力などが重要となる。

弁理士には、対特許庁の手続きを迅速・確実に実行したり、質の高い明細書と図面を作成する能力、 知財訴訟を着実に行なえる能力、複雑な技術と法的関係の事件であっても正確な鑑定を行なえる能力 などが求められる。

このように、1級知的財産管理技能士と弁理士の企業から見た役割と、求められる能力は大きく異 なるのであるから、1級知的財産管理技能士の試験も、それに応じた内容に今後も改善していく必 要があると考える。

最近まで、IP(知的財産)の分野の国家資格にはIPエージェントの国家資格である弁理士しかな かった。 これに、IPオフィサーの国家資格である1級知的財産管理技能士の資格が加わったことで、企業経 営に知的財産が貢献できる土台ができてきたように思う。しかし、1909年以来の約100年の長期 にわたってIPエージェントである弁理士の国家資格しか存在していなかった知財業界では、 IPオフィサーに必要な資質とIPエージェントに必要な資質の区別がうまくできていないように思う。 IPオフィサーとIPエージェントの役割と資質の相違を早期に明確化することが、知財業界全体に 求められる。

すなわち、1級知的財産管理技能士の試験は、発明評価能力、特許戦略能力、MOTの能力などの 評価に適した試験内容にしていく必要があると考える。


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