179.日本のイノベーション促進のための知財政策
1.「日本のイノベーションに関する主たる問題点」は前例踏襲横並び主義
イノベーションを実現するイノベーターの活動の阻害要因が、イノベーション活動の初期段階に多すぎると
いうことが主要な問題であると考えます。イノベーターの活動に必要な設備、資金、人員、情報、業務権限の
割り当ての決定権限を持っている人がイノベーションと逆方向の価値観(前例踏襲横並び主義の価値観)を持
っている場合が多いということが、日本のイノベーションに関する主たる問題点です。
簡単な例で言いますと、「世界初の○○というものは、実績のない、他社もやっていないような、成功するかど
うかわからないものであり、そんなものに、経営資源を投入するわけにはいかない」という論理で、多くのイノベーションが日本か
ら消滅しているのです。
2.公共調達において特許権者・ライセンシーを優遇する制度がトリガーとして重要
前例踏襲横並び主義の価値観は、目利き能力が無くても何らかの判断ができ、判断結果について責任を問われ
にくいというメリットが、この価値観を用いて判断する判断者側にあるために、日本の隅々にまで広まってい
ます。
このような状況のもとで、イノベーターの行く手をさえぎる前例踏襲横並び主義の価値観の沼を突破するため
には、イノベーターであることが事業利益に結び付くという巨大な光が必要です。それが、「公共調達におい
て特許権者・ライセンシーを優遇する制度」です。
政府予算の規模は年間80兆円を超えるものになっています。地方自治体および独立行政法人の予算も含める
とさらに巨大となります。この大規模な予算の執行での公共調達において、特許権者・ライセンシーを優遇す
るならば、イノベーションをおこして特許権を取得することが、公共調達を受注することや、公共調達を受注
する企業などからのライセンス収入を得ることにつながることになりますので、イノベーション促進の大変に
大きな駆動力となります。そして、この駆動力が「前例踏襲横並び主義の価値観」を弱め、イノベーションの
阻害要因を減少させ、本来の日本のイノベーション能力を発揮させるようになります。本来、特許法上の「業
としての特許発明の実施」の中に政府などによる特許発明の実施行為も含まれますので、「公共調達において
特許権者・ライセンシーを優遇する制度」は政府が特許権侵害をしないためにも当然のことです。当然のこと
を促進することが、日本のイノベーション促進にもなるのです。具体的には、公共調達の手順に関する政令を
設け、その政令に次のことを定め、それを確実に実行することです。
(1)公共調達の発注仕様の作成段階おいて、その発注仕様に関連する特許権の調査をすることを、発注者の
義務とする。
(2)公共調達の発注手順の中に、発注仕様をカバーする特許権を有する者からの特許権の提示などがあった
場合の措置を定める。
(3)公共調達の発注仕様をカバーする特許権の存在がわかった場合には、その特許権の特許権者またはライ
センシーでない者に発注することはしないものとする。
4.膨大な件数の公共調達に関連する特許権の迅速な抽出のために請求項記述言語が必要
政府などが公共調達において特許権侵害をしないため、特許権者・ライセンシーを優遇して日本のイノベーシ
ョンを促進するためには、現実問題として、膨大な件数の公共調達に関連する特許権の迅速な抽出が必要です。この抽出作業を
効率化するためには、請求項をコンピュータが理解して処理することが必要ですので、請求項記述言語
(PCML)で請求項を記述するということが必要となってきます。
【参考サイト】
1. 石黒憲彦氏の志本主義のススメ: 横並びの打破と的確な位置取り
2. 事なかれ主義
3. イノベーションのジレンマ
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