Patent Island

１５１．ビジュアル系知財とパワー系知財

知財の世界にビジュアル系知財というものが出来つつあるようです。ビジュアル系知財は、知財および知財活動を可視化（ビジュアル化）したり、知財価値評価を行なうことで、知財を取引対象としたり、企業の価値評価の一つの指標として、株式投資などのために用いるものです。
パワー系知財は、知財を武器として活用して事業を守ったり市場を獲得するという伝統的で正統的な知財です。
例えるならば、ビジュアル系知財は、知財の武器商人や投資家（IPトレーダー）の知財ですが、パワー系知財は知財の武士（IPオフィサー）の知財です。
パワー系知財は、知財の創造、保護、活用という知的創造サイクルを形成して活動します。
ビジュアル系知財は、知財の可視化、評価、流通という知財をもとにした投資流通サイクルを形成しています。
現在のビジュアル系知財では、知財は群として取り扱われ、個数と分布形状が着目のポイントであり、知的財産権の権利としての強さというようなパワーの側面はほとんど無視されています。
パワー系知財の立場から見ると、現在のビジュアル系知財は役に立たないというように思えますが、ビジュアル系知財の立場から見ると、パワー系知財は無駄に戦かうものというように見えると思います。
ビジュアル系知財は金融業および証券業の分野で主として必要とされるものであり、パワー系知財は製造業を中心に必要とされるものです。
したがって、製造業の知財部がビジュアル系知財の活動を過度に行なっていますと、事業にも経営にも貢献できないということになります。
逆に、金融業および証券業の知財部がパワー系知財の活動を過度に行なっていますと、事業にも経営にも貢献できないということになります。
知財報告書のブームがおこりつつありますが、知財報告書は基本的にはビジュアル系知財のための活動であり、投資家に当該企業の知的財産の状況を開示することを目的にしています。
問題は、パワー系知財の活動をすべき知財部が知財報告書のために、ビジュアル系知財の活動に多くの労力を投入していると、せっかくの知財パワーが活用されなくなるとともに、知財部員から知財の武士（ＩＰオフィサー）の気概が消えてしまうということです。
こうなると、知財報告書には多くの知的財産権を保有していると言う記述をしていたとしても、それを活用すべき知財部の組織パワーがほとんど消滅しているので、知財報告書に記載の内容は現実を反映していないということになりかねません。

ビジュアル系知財の役割は、経営に対する有益な知財情報を提供し、活用することにあると思います。
パワー系知財の役割は、経営に寄与する知財パワーを提供し活用することにあると思います。
ビジュアル系知財の現状の問題点は、ビジュアル系知財の提供している知財情報が現在は経営に寄与できるレベルに到達していないのに、ブームだけが発生しているということです。
例えば、現在のビジュアル系知財の提供する情報では、次のような経営側からの質問には回答できないと思います。

１．　当社がＡ社との特許戦争に勝てる可能性はどの程度か？
２．　当社はＢという分野でＡ社よりも優れた技術力を有するのか？
３．　Ｂという分野は当社にとって有望な事業分野と言えるのか？
４．　当社の特許権ＣはＸ億円という価値があると算出してくれたが、本当にそれだけの利益を当社にもたらす方法はあるのか？
５．　当社の特許群ＤはＹ億円という価値があると算出してくれたが、本当にそれだけの利益をこの特許群Ｄを用いて得る方法があるのか？　また、特許群Ｄの中ではどれが最も価値ある特許権か？

ビジュアル系知財が可視化している知的財産権の価値は結局のところ、知的財産権のパワーとしての価値から発生するものです。そして、知的財産権のパワーとしての価値の根源は、知的財産の事業での活用という行為です。
こう見てくると、ビジュアル系知財の基礎として、従来の伝統的なパワー系知財での十分な経験に基づいた豊富な知見が必要ということがわかります。
したがって、知的財産権のパワーとしての評価を省略して、件数分布やキーワード分布の皮相レベルで知的財産権を把握するだけのビジュアル系知財であるならば、それらには有益な知財情報の提供はできないと考えます。

ビジュアル系知財が本来の目的としている経営にとって価値ある知財情報の提供をするためには、知的財産権のパワーの分析能力を高めるなどの多くの努力が必要だと思います。

【参考サイト】
１．　知財経営＆知財コンサルティング
２．　「知財経営の時代」が本格到来－ CIPOが求められる背景