日本の現在の知財立国の戦略は、良くできていると考えますが、残念ながら米国に追いつこうというものであると 考えます。
知財戦略で、15年も米国に遅れていた日本が、米国に追いつくことだけを考えて、中国などと同じように米国の 背中を見ながら走っているだけでは、他国との競争に勝って知財立国を成し遂げる戦略にはならないと思います。 したがって、アメリカを越える知財戦略を立案し、実行しなければならないと考えます。
私達が考えるアメリカを越える知財戦略のポイントを説明いたします。

1. 日本人の発明能力を高める教育をする。
質の高い発明が大量に発生することがなければ、いくら知的財産権の法制度や体制整備をしても、加工する原材料 の入荷のない工場のようなものですので、知財立国にはなりません。したがって、日本人の発明能力を高める教育 政策が必要です。
日本人の発明能力を高める教育は、次のようなものです。
 (1)中学校以上の学校教育において、「発明的問題解決」という学科をつくり、優秀な発明者を教師として配 置し、発想支援システム利用法、問題抽出手法、各種の発想法、瞑想法、論理思考法、アイデアの表現とプレゼ ンテーション方法、公知技術調査と発明の比較方法などを教えます。また、発明が人類社会に果たす役割や、歴 史への影響を教え、発明をもとに立派な企業を起こした経営者の実話を教えます。さらに、発明実習を何度も繰 り返し行なわせ、特許権を取得できる発明をするコツを体得させます。
 (2)大学の工学部の入学試験の必須科目に「発明的問題解決」を入れます。
いくら中学校以上の学校教育において「発明的問題解決」という学科をつくっても、大学入試の科目になっていな ければ、マイナーな科目として取り扱われるだけになり、日本人の発明能力の向上にほとんど寄与しません。した がって、大学の工学部の入試科目に「発明的問題解決」という科目を入れることが必要です。

2. 発明者が報われるための法整備をする。

いくら、日本人の発明能力を高める教育をしても、発明者が十分に報われる社会を形成できなければ、知財立国の 基礎を形成する発明者の活動は活発化も高度化もしません。
発明者が報われるために、次のようなことをします。
発明者に、自己の特許発明について発明時の所属会社などを退職後に1回だけ行使できる実施許諾権を与えます。 この実施許諾権は、発明者が職務発明についての特許を受ける権利を自己の所属する会社などに譲渡をしても発明 者に残る権利とし、譲渡不能なものとします。この実施許諾権を行使した発明者またはその相続人は、発明の譲渡 対価が相当であったかどうかについて争うことはできないものとします。
このようにしますと、発明者と所属企業が相当の対価について争うことが少なくなりますし、企業は優秀な発明者 の処遇を厚くして、退職を防止するようになると考えます。

3. 請求項記述言語により、請求項の記述構造を大幅に改善し、特許に関するITインフラを実現し、知的創造 サイクルを大きく早く回すようにする。

 (1) 請求項をコンピュータにも人間にも理解可能に記述し、良い構造の請求項の作成を促進するための請求 項記述言語を、日本の知財立国の技術的なインフラとして構築します。

請求項記述言語とは、請求項のあるべき構造モデル(機能を示すノードと、機能間の関係または機能間の入出力を 示すリンクで表現されたグラフ構造のモデル)に基づいて、請求項の構造を表現するタグをXMLを用いて規定し た言語です。

請求項記述言語に従って請求項を記述することで、請求項は明瞭で、人間にもコンピュータにも理解容易になりま す。その結果、請求項の示す発明の技術構造の相互の比較や、請求項の示す技術をブロック図で表現することが可 能になります。これは、審査、裁判、企業での特許戦略の立案、特許価値評価などの効率化と高精度化をもたらし ます。

請求項記述言語を用いないで記述されている、これまでの請求項は、表現の自由度が高すぎるため、技術的範囲の 不明確な請求項や、技術的にみるとバグのある請求項が多発し、審査や特許紛争解決や裁判の遅延をもたらしてい ます。また、請求項は一文で記述されるため、非常に読みにくい事、特許権がカバーする技術的範囲がわかりにく く、権利範囲が不明確な事などが原因で、企業内で特許権を事業や経営に活かす立場にある事業部長、経営者、事 業企画担当者にとって、特許権を経営資源として扱うことが非常に困難であるというのが実態です。

請求項記述言語は、上記のような問題点を解決するとともに、特許関係の種々のツールの共通基盤となりますし、 設計ツールと特許ツールのインタフェースとも成りますので、知財立国のITインフラと位置づけることができる と考えます。

請求項記述言語を研究している団体として、SMIPS特許戦略工学分科会があります。下記サイトを参照くださ い。
http://groups.yahoo.co.jp/group/Patent_Strategy_Engineering/

請求項記述言語に関しては、次のサイトに種々の研究成果を記載しています。

http://www.patentisland.com/Patent_Strategy_Engineering/Result.html
 (2) 請求項を構成する構成要素に対応する技術や製品の情報をデータベース化しておき、そのデータベース と請求項を組み合わせて、特許発明という新規な物の事業を立ち上げるための企業や大学の連携の仲介情報とす ることも、可能となります。

 (3) 請求項は、求められる機能や、解決すべき課題の解決手段の実現に必要な機能の組み合わせや、方法の 実行手順を記述したものでもあります。したがって、請求項をユビキタスネットワークやWebサービスにおい て必要な問題解決機能のための知識情報として、利用することも可能となります。

4. 「知財・技術評価できる人」及び「知的付加価値を創造できる人材」を養成する

 (1) 分野的には、「教育」になりますが、そのような人は大学だけで出来るものでなく、産学官の人材交流 で実現するもので、「さような産学官環境整備」が必要です。
文部科学省が「目利き人材研修」(基礎・応用)を試みに実施していますが、実践的には、「そんな人はいない」 と否定する中で、「技術評価」の出来る人に、ベンチャー・ラボ(株)の山中社長、西武しんきんキャピタル(株) 松下取締役がおられます。
今、日本で苦渋しているのは、かかる3−5年先を見分ける「目利き」が居ないのではないでしょうか?

 (2) 2005年4月、大前研一氏開校予定の「知的付加価値を創造できる人材養成のための、ビジネスブレ ークスルー大学院大学」です。氏の持論「論理的思考」をベースに、徹底的に鍛えるという意気込みのものです 。とかく人情論に流されやすい日本人ではありますが、国際的ビジネスに立ち向かうためには、かかる「創造的 人材養成」が必須になりましょう。